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2023年03月27日11時03分掲載
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アジア
ミャンマー「夜明け」への闘い(24)軍の支配とコロナ禍、二重苦にあえぐ国民 西方浩実
7月18日。薬局には早朝から人々が列をなし、窓の外からは救急車のサイレンが聞こえる。職場では、朝のオンラインミーティングの参加者が少しずつ減っていく。今日はあの人が熱を出した。今日はあの人のお父さんが亡くなった。そんな感じで、一週間が終わるころには、参加者はいつもの半分になっていた。
▽誰も信用しない軍政の感染者数発表 軍政府の発表によると、1日の感染者は5000人。 ・・・5000人?まさか。残念だが、そんなに少ないはずはない。
軍事政権下の保健省は、毎日、夜8時にコロナの新規陽性者数を発表する。ここのところ、毎日の検査数がだいたい1万5000人で、うち陽性者が5000人。つまり、陽性率は30%を優に超えており、感知されていない陽性者が相当数いることを示している。
だが陽性率を参照するまでもなく、5000人なんてものではない、ということに誰もが気がついている。軍の保健省が把握している感染者や死者の数は、病院などの施設で診断や治療を受けた、ごく一部の患者だけだからだ。実際には病院で検査を受けられる人などほとんどおらず、みんな薬局に並んで検査キットを買い、自宅で自主検査をしている。今や病院も隔離施設もパンパンに満床で、たとえ明らかな呼吸器症状があっても、病院での検査や診断は受けられないのだ。
火葬場のご遺体の数も、軍事政権下の統計が過少であることを裏付ける。例えば1日に数十人が亡くなった、と発表された日の火葬場には、それをはるかに上回る数百体のご遺体が届いているのだという(注1)。
もはや病院を頼れない人々は、薬局で薬や酸素飽和度の測定器を買い、酸素ボンベまで準備して、コロナ感染や重症化に備える。医療者でもない人たちが、見よう見まねで検査や治療をするのだから、きちんと検体がとれるのか、適切に酸素が投与できるのか、など甚だ怪しいのだけれど、他に方法がないのだから仕方ない。
私の友人も、自宅で鼻腔にスワブを突っ込んだという。「うまくできなくて、血が出ちゃった」と笑う。ちなみに彼の場合、家族3人みんな陽性だった。
雨季のミャンマーでは、インフルエンザやデング熱などの疾患も多い。だからもう、どれがコロナかはわからない。それでも、これだけ周囲で発熱している患者がいるのは異常だと思う。
人々は、このクーデター後のコロナ禍を生き延びようと必死だ。連日、あの人がコロナに罹った、あの人が亡くなった、というニュースが届く。すると、誰しもがこう思う。「次は自分かもしれない」「高齢の両親は、感染したら重症化するに違いない」「病院の治療は受けられない、死ぬしかない」。
そうして、解熱剤や抗生物質を手に入れるため、何時間も薬局に並ぶ。卵や生姜が体に良いと聞けば、藁にもすがる思いで買いに走る。重症化した患者がいる家族は、酸素ボンベを抱えて街中を走り回る。集団ヒステリーのような状態だが、もう歯止めがかからない。こうしたパニックが起こる条件が揃ってしまっているのだから。
軍は、医療者やボランティアを募集しはじめる。人々は、それを鼻で笑う。「何を今さら、虫のいいことを」と。私もそう思う。国連発表によると、この5ヶ月間で、軍は医療者と医療施設に対して、少なくとも240回もの攻撃をした。そして、少なくとも17人の医療者が殺されている。CDM(市民不服従運動)に参加したために指名手配を受けた医師は約400人、看護師は約200人。見せしめのように、国営放送や国営新聞で、犯罪者として顔写真と名前が垂れ流されてきた人たちだ。CDMに参加した医療者が私立病院で医療を提供し始めると、軍は、その私立病院をも攻撃の対象にした。銃弾を撃ち込まれた病院もあれば、営業許可を取り消された病院もある。
一方、公立病院は2月からずっと、軍によって占領されている。以前、軍の弾圧を受けて負傷したデモ参加者が運び込まれたときには、軍は彼らを患者ではなく犯罪者として、ベッドに鎖でつないだ。だからデモ参加者たちは、たとえ重傷を負っても、公立病院にだけは連れていかれるまいと、怪我した体を引きずって逃げ、身を隠していたのだ。
国の医療体制を壊してきたのは、軍政府にほかならない。今さら医療者を募集したところで、誰が手を挙げるだろう。医療者不足で困っているなら、まず逮捕した医療者を解放したらいかがですか、と冷ややかに思うのは、私だけではないはずだ。
ミャンマーの受難は続く。この救いようのないコロナの感染拡大に対し、国連は、WHOは、ASEANは・・・だれか、だれか助けてくれる人はいないのだろうか。
ミャンマーの医療団体Myanmar Doctors for Human Rights Networkは、オンライン上で国際社会の連帯を呼びかけた。「ミャンマーは今、軍の支配とコロナで、かつてない規模の災害に直面しています。人々が、路上で窒息し、無力に死んでいるのです。この悪夢のようなクーデターとコロナで苦しむミャンマーの人々のために、どうか声をあげてください。」
▽国際社会の支援受け入れも期待薄 7月26日。友人や同僚から、悲しい報告が頻繁に届くようになった。今日も地方在住の友人から、父親の葬儀をしたと連絡があった。「本当なら、親族や友人みんなでお寺に行くんだけど、家族だけでひっそりとお葬式をするしかなかった」。寂しそうにそう言う友人に、仕方ないよ、お父さんもわかってくれるよ、と月並みな慰めの言葉をかける。
朝のオンラインミーティングには、スタッフの憔悴した顔が並ぶ。「私の症状はおさまってきたけど、夫の熱が引かない」「夜中も咳が出て眠れない日が続いている」「毎日のように、近所でご遺体が運び出されている。平常心ではいられない」「なんか僕も今朝から体調が悪い気がするんだ。コロナかな…」
さらに、カレン州やモン州などミャンマーの南東部では、洪水が起き始めている。もともと洪水が多い地域なので、住民たちは慣れたもので「今、1階に水がきてるよ」などと、のんきな電話がかかってきたりする。それでも、今年はいつもより心配なことがあるという。「これ以上水位が上がったら、水が引くまで高台の僧院で集団生活するんだ。コロナの人がいたら、クラスターになっちゃうよ」
先週、コロナの陽性率は40%を突破した。ただ、先週からようやく全国一斉のロックダウンが宣言され、街ゆく人や車の数は激減している。あと1週間も経てば、感染拡大に歯止めがかかるだろう。もちろん、今入院できずに自宅で苦しんでいる人がみんな治療を受けられるようになる、などという希望的観測は描けない。それでも、一人でも多く医療につながってほしい。患者も家族も、みんな疲れている。
そんなミャンマーを助けてくれと、海外に訴えを続ける人たちもいる。民主派の亡命政府NUG(国民統一政府)はもちろん、国連組織や、各国大使館、ヤンゴンの医科大学や看護大学までもが、次々とミャンマーへの支援を求める声明を出した。捕虜や囚人の人権を守る国際赤十字委員会は、ミャンマー各地の刑務所でコロナが蔓延しているという情報を知り、軍に繰り返し「介入させてほしい」と要求している。
しかし肝心の軍政が、海外からの支援を積極的に受け入れることはまずないだろう。実はこれについても、軍には前科がある。2008年にミャンマーを襲った、未曾有の大型サイクロン、ナルギスだ。このとき、国連や各国政府が、発災当初から救援を申し出たにもかかわらず、当時の軍事政権は「自分たちで対応できるので援助は不要」と支援を拒絶した。
最大の理由は、ナルギスが上陸したタイミングだ。あの悪名高い、2008年憲法(注2)の是非を問う国民投票の直前だったのだ。軍は、人権意識の高い国連や欧米が国に入ってくるのを嫌ったらしい。結局、1ヶ月後にようやく国際的な支援が入るまで、サイクロンそのものによる被害だけでなく、災害後の感染症の蔓延などにより、死者数は積み上がり続けた。最終的な死者・行方不明者は、約13万8000人。(なんと、あの東日本大震災の7倍以上)
サイクロンそのものは自然災害だが、ナルギスは間違いなく人災でもあった。同じことが、今、再び起きようとしている。(なお、ナルギス直後に強行された憲法の是非を問う国民投票は、この悲惨な状況にも関わらず、なんと投票率98%、賛成率92.5%で承認された。もちろん、軍が発表した数字だ。)
もしも今、軍が国際社会に緊急支援を呼びかけ、CDM医療者たちへの逮捕や指名手配をやめれば、いったいどれだけの命が救われるだろう。
・・・もっとも、軍政は今のところ真逆の方向に突っ走っている。人々が列をなす民間の酸素プラントを強制的に閉鎖し、ついでにそこに預けられていた患者のボンベを横取りしたり、コロナ禍で無料診療を続ける医師たちを、患者のふりをして呼び出して逮捕したりと、予想を超える卑劣さを発揮している。
ちなみに、ミャンマーがこの災厄に見舞われている同じ瞬間、日本ではオリンピックが開幕し、新競技やメダルの色で盛り上がっている。それを批判する気はまったくない。ただ、自分のSNSのフィードに、コロナで悲惨なミャンマーの状況と、オリンピックで盛り上がる日本のニュースがランダムに並ぶのを見ると、世界は無情だなぁと、なんとなく天を仰ぎたくなる。
<注> 1.民間紙Mizzimaがヤンゴンの4つの火葬場の記録を調査した結果、7月14日〜29日で17,715人が火葬されたという。一方、軍事政権下の保健省が発表した死亡者の統計は、同じ期間に(ヤンゴンだけでなく)全国で4,500人ほど。軍保健省の発表と現状には、大きなギャップがあることが伺える。 2.軍事政権下の2008年に制定された『ミャンマー連邦共和国憲法』。国会議員の4分の1を軍人議員が占めることなど、軍が強大な政治力を持つことが規定されている。また、国の分裂や国家主権が失われるなどの『緊急事態』においては『国家緊急事態宣言』によって立法・行政・司法のすべてが国軍総司令官に移譲される、という、いわゆる『合法クーデター条項』も定められており、今回のクーデターはこれが悪用された。
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空になった酸素ボンベの充填を待つ人々。ヤンゴン市内の酸素プラントで列をつくる人たちに向かって、軍が発砲したという事件もあった。可燃性の高い酸素に発砲するなど狂気の沙汰。爆発しなかったのがせめてもの救いだ(写真:The Irrawaddyより)
ヤンゴンの火葬場に、ご家族を亡くした遺族たちが押し寄せる(写真:Khit Thit Mediaより)
軍の弾圧を受けて負傷し、公立病院に運ばれたデモ参加者。軍は彼らを患者ではなく犯罪者として扱い、治療もせずにベッドに鎖でつないだ(写真:友人医師より提供)
水害とコロナのダブルパンチを受けるミャンマー南部。いかに洪水に慣れていようとも、酸素吸入の必要な人をボンベと一緒に避難させるのは大変だろう(写真:Twitter/Revolutionalry News)





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