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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2023年04月02日01時59分掲載
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コラム
早く訳されてほしいパトリック・ブシュロン編『Histoire Mondiale de la France ( 世界の中のフランス史)』
私が最近、早く訳されてほしいな、と思っている本がフランスの歴史学者パトリック・ブシュロンが編集した『Histoire Mondiale de la France ( 世界の中のフランス史)』です。これは原書で750頁を越える大著で、フランスの歴史学者ら129人による共著なので、訳すとなると大変な作業になることは確実でしょう。しかし、その価値のある本だと思います。
何がよいのか、と言えば、本書のコンセプトが『国民の歴史』と反対になっていることです。私たちは歴史を振り返る時、しばしば後付けの視点で、それぞれの属する政党や組織、派閥、学閥などのある意図をもって振り返り、解釈することが多いのです。『国民の歴史』と言われるものは、近代国家のナショナリズムの視点から語られるものです。しかし、日本について言えば、今の日本国家が出来上がったのは近代になってからで、琉球や蝦夷を日本に併合してからのことに過ぎません。私の故郷岡山について言えば、かつては吉備という国があり、大和朝廷の今日につながるグループとは異なる国だった時代がありました。そういう時代を今の日本国家の視点から見ると、その当時の人々の意識や生活、海外との交流などの実像を見誤ってしまいかねません。
編者のパトリック・ブシュロンはイタリア・ルネッサンスを専門とする歴史学者ですが、そもそも欧州はかつてはローマ帝国やカロリング帝国、神聖ローマ帝国みたいに、今の欧州の国家とは国境も領土も異なる国家でした。時代によって隣国と領土が入れ替わる地域もありした。そういう意味で、『国民の歴史』で縦に国家単位で歴史を振り返ろうとすると、そこから拾えない事象が多々出てきます。そういう意味で、時代ごと、事件ごと、地域ごとに多様な視点からその分野の専門家たちが歴史をつづって編集したものが『Histoire Mondiale de la France ( 世界の中のフランス史)』です。特に国境をまたがって生起する事件や経済事象をうまく描くことができます。
東アジアの平和を考える時、共通の歴史教科書を書こう、という考えの人もいますが、そうした場合に、一国民の歴史、という方法を基盤にすると難しいのではないかと思います。そして、『Histoire Mondiale de la France ( 世界の中のフランス史)』がアジア人である私に興味深いのは、この本が天皇中心のアジア史観という近代日本国家のイデオロギーだけでなく、大国・中国の中華思想をも脱構築する方法でもあることです。一国民の歴史、という方法論で歴史を書こうとすると、どうしても固定された1つの視点から過去を判断する方法になりかねません。しかし、実際には時代ごとに視点も中心となる場所も様々に入れ替わるものです。
たとえば、日本でネトウヨが頻繁に使う「反日」という言葉の意味には様々なものがあるかもしれませんが、私はこの「反日」という言葉の中心的な意味は、「近代日本の帝国主義に対する反対者」という意味だろうととらえています。のっぺらぼうで手つかずの日本という言葉ではなく、政治的イデオロギーとしての日本です。つまり、反日とは私なりに「日本語→日本語」の翻訳をすれば「近代日本の帝国主義に対する反対者」という意味だと考えています。旧統一教会の政界への浸透が昨年の安倍首相暗殺以来、たびたび指摘され、むしろ左派の人々が自民党支持者や故安倍首相の支持者を「反日」と呼ぶことが増えてきました。しかし、私は違和感を感じることがあります。なぜなら、旧統一教会は過去の韓国の軍事政権と親和性があり、過去の韓国の軍事政権は日本の帝国主義の影響を受けていると私には思えるからです。
私は何も国家の解体を良しと考えているわけではありませんし、東アジアに欧州連合のような統合体を作ればよい、と特に考えているわけでもありません。ただ、歴史をリアルに考えようとすれば、今日の視点で過去を見ると見誤るということです。これはミシェル・フーコーが言及していたこととも響きあうのではないでしょうか。そういう意味で、この本が早く日本で翻訳されることを願っています。
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パトリック・ブシュロン編『世界の中のフランス史』
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