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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2023年04月06日10時57分掲載
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アジア
ミャンマー「夜明け」への闘い(26)現金がない!未明から銀行前に長蛇の列 西方浩実
5月14日。「今日は夜中3時半から銀行に並んだの」。・・・は!?夜中3時半??驚く私に、彼女は疲れた声で、さらに驚くことを言った。「でも、もうその時点で、100人もの行列ができていたの。朝9時に窓口が開くまで6時間ちかく待ったけど、結局私はお金を下ろせなかった」
彼女が住むのは、ミャンマー中部の地方都市だ。その街には、銀行でお金を下ろすべく、周辺の農村部から毎日何十人もがバスをチャーターしてやってくるのだという。夜間外出禁止令が終わる朝4時を過ぎると、さらに列が長くなる。とにかく今ミャンマー人は、現金を手に入れようと必死なのだ。
「私たちは基本的に、銀行を信用していないの」。そう教えてくれたのは、元銀行員の友人だ。「国営銀行はもちろんだけど、大手民間銀行も軍との繋がりがある。だから自分の預金が軍の命令によっていつ引き出せなくなるかと不安なのよ。だから今たくさんの人がお金を引き出しているけど、預金する人はいないから、銀行にも現金がなくなっているみたい」。
同僚は、指を折りながら説明してくれる。「ATMからは今、週2回、30万チャット(約2万1000円)ずつしか下ろせないんだ。僕の貯金は全部で300万チャット(約21万円)だから、全部で10回、5週間かけて引き出すことになる」。とはいえ、週に2回というのは、あくまでルールの話。実際には、銀行窓口やATMの現金がなくなれば、そこでおしまいだ。彼も、先週ほぼ毎日仕事を早退してATMに並んでいたのだけれど、現金を引き出せたのは1日だけだった。
さらに悪いことには、ATMの機械に補充される現金の量が、今週から3分の1(約500万円から約160万円)に減ったのだという。「毎日並ぶ人は増えるのに、扱う現金は3分の1。とても行き渡らないよ。それに実際には、現金が1チャットも補充されない日もあるんだ。そんな日は何時間も並んで手ぶらで帰るしかない」。そう言って、彼はオーバーリアクションで嘆いてみせる。「僕の全財産はどうなっちゃうんだろう!」
こうした状況下では、新たな商売も生まれる。たとえば、本人の代わりに銀行の列に並んでくれる「並び屋」。友人は5000チャット(約350円)で、朝5時から14時半まで並んでもらったという。でも、結果は散々だった。並び屋から「そろそろ順番がくるよ」と電話がきたので、意気揚々と出かけたもののもうすぐ自分の番、というところで、銀行の現金が切れたのだそうだ。「5000Ks 払って、結局1Ksももらえなかった」と友人は嘆く。今ミャンマーの人々は、来る日も来る日もこんなことを続けている。銀行に預けた自分のミャンマーチャットを、取り戻すために。
銀行の支店によっては、行列をつくらせるのではなく、預金引き出しの整理券を配るところもある。しかしこの整理券も、またたく間に配布終了となった。大手の民間銀行のある支店では、なんと2ヶ月半も先(8月末まで)の整理券を、すでに配り終えたのだという。きっと今後、市場に出回った整理券が高値で取引されるようになるだろう。
こうした状況で跋扈するのは、地下取引だ。インターネットバンキングなどで指定の口座に送金すると、ミャンマーチャットを払い出してくれる。ただし手数料が高い上、その値段も上がり続けている。
ある友人は、興奮気味にこう教えてくれた。「2週間前に業者をつかったとき、手数料は引き出し額の2.5%だったの。それが、たった2週間で、10〜15%に上がったのよ!1円でも惜しいときに、15%なんてとても無理だよ」
信用がないのは銀行だけではない。現地通貨であるミャンマーチャットの信用も、恐ろしく低い。これは過去の軍事政権の教訓でもある。軍は過去に3度、悪名高い「廃貨」を実行しているのだ。廃貨というのは、例えば「今日から千円札は使えなくなりました」というアナウンスが出て、いきなり千円札が紙くずに変わるという、ウソみたいな政策だ。
「社会主義の本当に貧しい時代に、長い間コツコツ貯めたお金が、いきなり紙くずになって、気が狂った人もたくさんいたんだよ」と、友達から聞いたことがある。
そんなわけで、ミャンマーチャットを信用しない市民たちは、現金を手に入れると、次々に貴金属やドルを買い始めた。すると、そうしたものの価格がぐんぐん上がりだす。クーデター前、1ドルは1350チャット(108円)だったが、たった3ヶ月半で1750チャット(124円)まで上がった(注)。金(ゴールド)の価格も上昇を続け、1ビス(ミャンマーの単位。約16.5 g)に対し、たった1日で数千円も値上がりすることもあるのだという。
同僚は「Everyday(毎日)じゃなくて、Every hour(毎時間)チャットの価値が落ちていくね」と苦笑した。
一見落ち着きを取り戻した街で、日々進行する異常事態。社会や経済はこうやって崩壊していくのか。政府を失った市民たちが、今日も現金をめぐって列をつくる。
注・なお、クーデターから1年半が経った2022年8月現在、ミャンマー中央銀行の公定レートは1ドル2100チャット(約133円)まで切り下げられている。市中の闇レートは、日によって4000チャット(約250円)台まで下がっている。
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開店前の銀行の前で列を作る人たち。街のいたるところでこうした光景が見られる。いったいこのうちの何人が、今日現金を手に入れることができるのだろう(The Irrawaddyより)
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