「日本の与党政治家が日本国を植民地にする?バカも休み休み言え」と保守の人から送られるかもしれません。しかし、過去20年の間にこの国で、さらに他の先進諸国で進行している現象を見ると、多くのことが私の仮説を裏付けているのです。「アメリカファースト」とか、「都民ファースト」とか、「国民ファースト」というスローガンを極右・ナショナリストの政治家は拡散しますが、これは前回のコラム1で私が書きましたように、まさに「自国植民地化」の兆候です。すなわち、植民地化を隠蔽するために、ナショナリストを偽装する必要があるのです。
過去20年、あるいは四半世紀と言った方が良いのでしょうが、自国植民地化は自由貿易協定とともに始まったと言っても過言ではありません。その根拠というのは、自由貿易協定の中身が国民に秘密裏に作成され、議会でも議員たちが詳細については知らされない、ということが横行していることにあります。これは多国籍企業の利益のために、国民主権を壊しているわけです。様々な自由貿易協定でこうした傾向がみられますし、記憶に新しいところではTPPでもそうでした。また、台湾と中国の経済サービス貿易協定が2014年に議会で批准されそうになった前夜、台湾の大学生たちが議場に突入、占拠して協定を阻止したひまわり運動は台湾の歴史上、画期的な事件でした。これも当時、協定の中身が外部の人間にはわからず「黒箱」と言われていたものです。
以下は、2014年に私が書いたものです。TPPを前に、米国で秘密主義が蔓延し、議員ですら中身がわからなかったことに米国の市民団体が抗議を行った時のものです。少し長い引用ですが、目を通していただければ幸いです。
*TPPを警戒する米市民 弁護士ロリ・ワラック氏のコメント 〜「TPPは企業による‘トロイの木馬’作戦」 〜蔓延する秘密主義 見えない中身 上陸前夜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401241727505
「12か国が参加し、世界経済のGDPの4割を占めるとも言うTPP参加国の経済規模の巨大な貿易協定であるにも関わらず、主導する米国においても国民の代表である国会議員に対して極端な秘密主義で情報が閉ざされてきたという。ワラック氏は報道によると、ハリバートンやモンサントなど600社を超える米グローバル企業の人間がアドバイザーとして米国のTPPの草案作りに参画してきたという。企業の職員が自由に草案に触れられる傍ら、なんと国会議員たちが初めてそのテキストに目を通すことができたのは去年の6月のことだったという。米国内においても、国会議員や市民はどんな協定になるのか、中身がわからない状態におかれているようだ。 しかもTPPの米草案の全29章(チャプター)のうち、貿易に関するものはわずか5章に過ぎないようだ。つまり、TPPは貿易自体よりも、8億人の人口を抱える環太平洋地域にグローバル企業が国の規制を排して自由に商行為が行えるフリーゾーンを作ろうという米企業主導の国を超える新体制運動のようだ。だから、ワラック氏はそれぞれの国の「食の安全、環境規制、金融規制、エネルギー政策や気候に対する政策」が企業の利益優先で崩されていく恐れが高いと警告している。」
国政選挙で選ばれた国民の代表である議員ですら協定案の中身を知ることができない、ということが何を象徴するかと言えば、議会がもはや国民の討議の場ではなく、宗主国から植民地へ、上から下へ、政府の方針を伝えるだけの場になろうとしていることです。これを見ると、もはや国境を消して広大な領域を創出し、それまでの国家による社会福祉や環境政策の基準を壊し、資本の論理で労働者をバラバラにして統治する、新植民地主義が見て取れるでしょう。日本は米国の言いなりになっています。このようにグローバリズムに経済が覆われ、国境がオープンになるほど、その国境なき実態を隠蔽するために与党は「日本を取り戻す」と言ったり、過去の植民地主義を賛美したりする必要があるのです。日本国民のために政治を行っている、というストーリーの中身が空っぽであることが露見すると、巨大な国民の怒りの対象になってしまうからです。小池都知事が関東大震災の時の朝鮮人虐殺を認めようとしない理由もそこにあります。ことがるごとに尖閣諸島を見せたがるのもその一環です。ですから、政治家や政党が愛国をうたう時、実際の愛国心は言葉と反比例する関係にあるとみて差し支えないでしょう。
その意味で、新植民地主義は過去の植民地主義と比べて、比較にならない程緊密にメディアを支配しています。21世の新植民地主義は国家を解体するイデオロギーなのですから、本質的にはこれくらいナショナリストの憤激を買う政治もないはずです。日本国家解体は左翼ではなく、保守勢力が前のめりになって推進しているのです*。それをさも国家の華々しい物語が進行しているような物語をメディアは作ることで政府の予算や企業の広告収入が得られるのでしょう。安倍首相の時代のメディアを思い返せば、20世紀にはありえなかったほどメディアが日本国家という安倍政権が描く「物語」の共同制作者になっていました。アベノミクスも東京五輪も日ロ交渉の描き方もすべてそうです。あれほど鳴り物入りで報道されたそれら1つ1つの中身がいかに貧弱で、みすぼらしいものだったか、今となっては明らかです。しかし、安倍首相がもしホンモノのナショナリストであったなら、韓国の旧統一教会にここまで議員たちが洗脳され、影響を受けることはありえなかったはずです。原発推進も与党が「国土」という価値観などみじんも信じていないからこそ可能なのです。だからこそ、福島の汚染水垂れ流しを無視しても「美しい日本」というレトリックが必要なのです。
しかし、現実にはもはや日本という「国境」の内部に住んでいても、支配層と植民地住民とで二分されつつあります。まだ南アフリカでアパルトヘイト政策が行われていた時は、白人と黒人で隔離されていました。まさに、あれこそ自国植民地化の象徴です。そして、それは人種が同じであっても格差が積み増していくと住まいも話す言葉も違いが広がり、日本のような同質性が高いと言われた国の内部にすら植民地化は起こり得ます。そして、自民党が憲法改正で目指す国民主権の撤廃というのは、まさに植民地の人間の参政権と人権を根こそぎ奪うことに他なりません。これが植民地主義である限り、収奪はもっとさらに苛酷さを増していきます。これは私の仮説ではありますが、もし仮説が正しければ、今後さらに増税と福祉基準の切り下げが続くでしょう。
暗い見通しになりましたが、私自身こうならないことを祈っていますし、仮説が間違いであってほしいです。ただ、こうした新植民地主義がどこから起きるかと言えば、イマニュエル・ウォーラーステインが提示した「史的システムとしての資本主義」**が国民の生活を向上させることを動機にしているのではなく、利潤の増大を目的にしていることにあります。投資の目的が利潤の拡大であるがゆえに必然的に、資本は際限なく利潤の拡大を求め続けます。利潤が増大するなら、民生が劣化することも当然許容され、選択肢に入ります。放置すると今後はますます収奪は激しさを増し、苛酷になります。その逆にはなりません。今、コロナ禍やウクライナ戦争で一時的に経済がダウンしているだけで、そのうち、上げ調子になると期待するのは愚かですし、間違いに気がつくまでにさらに10年を要するはずです。維新や国民民主など偽野党の役割は新植民地主義の内部にオルタナティブあるという幻想を国民に見せることです。岸田首相が海外でばらまいているものは、日本国民の命なのです。
*マンスフィールド研修と対日政策
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201008192244414
**ウォーラーステインは「史的システムとしての資本主義」は資本の自己増殖を原理とする特殊歴史的なシステムであると定義しています。 「史的システムとしての資本主義と呼んでいる歴史的社会システムの特徴は、この史的システムにおいては、資本がきわめて特異な方法で用いられる〜つまり、投資される〜という点にある。すなわち、そこでは、資本は自己増殖を第一の目的ないし、意図として使用される。このシステムにあっては、過去の蓄積は、それそのもの自体のいっそうの蓄積のために用いられる限りにおいて、「資本」となったのである」(「史的システムとしての資本主義」)
■イマニュエル・ウォーラーステイン著 「史的システムとしての資本主義」(川北稔訳) 〜半労働者と大富豪〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701221706330
■国家戦略特区と安倍首相のブレーンたち 新浪剛史氏と竹中平蔵氏、そしてオリックス
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201703181709096
■間接金融時代と直接金融時代の日本の首相の違い(仮説)〜宏池会の激変とグローバル化〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202301291151440
■バーニー・サンダースら上院議員12人がTPP再交渉をオバマ大統領に促す<<再交渉で致命的欠陥を是正するまで議会で批准の議論をすべきではない>> 上院議員たちが危機感を感じる複数の欠陥条項とは?
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611020218563
■21世紀の植民地主義 〜朝鮮植民地化と同じことを日本国民に〜 その6
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304252304462
■21世紀の植民地主義 〜日本国民の上に君臨する「高天原族」〜 その5
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304232146180
■21世紀の植民地主義 〜自国植民地支配のために天皇制も危機にさらす〜 その4
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304201628204
■21世紀の植民地主義 〜外国人研修生の苦難は明日の日本人の運命〜 その3
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304191806413
■21世紀の植民地主義 〜自国を植民地にして今後はもっと苛酷に収奪する〜 その2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304171658441
■21世紀の植民地主義 〜自国を植民地にして敗者から収奪する〜その1
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202304160339170
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