バイデン大統領が岸田首相に3回も防衛予算増大を勧めたとスピーチで公にしたことが日本で波紋を呼んでいます。もちろん、それは当然のことではあり、日本が外交においても、さらには財政においても主体性を持ち得ない国であることを暴露してしまいました。日本にとって大切なことは日本と米国は存在する地理的状況も歴史的状況もまったく異なっていると認識することで、そこに日米で同じ国益があるという風に考えたことに誤りがあります。前に日刊ベリタで何度か指摘しましたが、米国に誘われて中国と戦争を始めたとしても米国が途中で抜けてしまう可能性もあることです。そうなった場合に日本一国でも大義のために戦うのか、というところを考えないと戦争を遂行することは不可能です。
■米軍が単独講和で戦線離脱した場合、日本人は一国で戦い抜く覚悟があるのだろうか 「旧敵国条項」・戦勝国による戦犯の裁判・天皇制の行方
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202212180056350 バイデン大統領について言えば、まずはもともとがオバマ大統領の副大統領でした。2020年の民主党予備選でまったく冴えなかったバイデン候補を、民主党の何者かが3月上旬のスーパーチューズデーに向けて、民主党中道保守系の大統領候補者をごそっと辞退させてバイデン大統領でまとめて、バーニー・サンダースに逆転したことを忘れてはなりません。バイデンを勝たせた民主党の黒幕はオバマ元大統領だと私は想像しています。
■開票 nprの速報によるとバイデン候補はオクラホマ州、ミネソタ州、アーカンサス州、テネシー州、アラスカ州、バージニア州、ノースカロライナ州など7州で勝利の模様 サンダース氏は3州
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202003041242433 ■野党共闘の伸び悩み 左派陣営にある分断線 〜フランスとアメリカと日本で見る〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202111121214495 オバマ大統領(当時)とバイデン副大統領(当時)が任期1年目の2009年にホワイトハウスで目指したことは、格差社会解消のために米国の中流層のボリュームを増やすことで、そのためにはリーマンショックで崩壊の淵にあった自動車メーカーを助け、さらに海外に工場が移転していた製造業の工場の国内回帰を促しました。2016年の大統領選でトランプを勝たせた製造業のあるベルト地帯の工場労働者たちの票が大統領選の勝敗を分けるもとになっていたのです。ヒラリー・クリントンが敗北したのもまさに、工場移転を促したNAFTAなどの自由貿易協定を彼女の夫のクリントン大統領が進めたことが根底にありました。そういう意味で、米軍需産業もまた製造業であり、この雇用を確保することが再選につながる手堅い一歩です。そのためには日本が大量に米製兵器を買ってくれると助かります。
オバマ大統領の時代は2009年から8年間でした。安倍政権が自衛隊が海外で戦争ができる安保法制を従来の憲法解釈を変えてでもごり押し的に制定してしまったその源には、オバマ大統領が軍事支出を日本に少しでも負担させたい、という思いが大きく作用していたはずです。当時、リーマンショック対策で公的支出が莫大に必要となり、野党の共和党から厳しく政府債務の上限でキャップをつけられ、あらゆる予算を削ったうえで、日本の軍拡に期待するほかない、という状況でした。安保法制が2015年に制定され、その後、岸田首相が防衛予算を大幅に拡大しました。特定秘密保護法と合わせて、米国の負担軽減につながった政策です。
■ペンタゴンの軍事費削減 財政難から 11月23日までに超党派でまとめられなければペナルティとして削減額が倍増に・・・
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111081358532 ■戦争を一度始めたら終わらせるのが難しい 〜改憲を訴える政権与党に思う〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201907190251275 今回、米中の緊張関係を和らげるためにアントニー・ブリンケン国務長官を北京に派遣したバイデン大統領ですが、今後も兵器産業を支えるためには日本に買い続けさせないといけませんから、すなわち、また米中関係が緊張してくるときが来るであろうことを予想した方がよいでしょう。そのためには、メディアを動員して危機をアピールしてくることが予想されるのです。本来、日本は平和憲法を持っているのですから、たとえ台湾有事でも米中による海外の戦争に巻き込まれるべきではないのです。
かつて、ジョージ・W・ブッシュ大統領(2001年〜2009年)の時代に、中国と米国の貿易支出のアンバランスが問題になっていましたが、その当時、ブッシュ大統領が盛んに<中国政府が為替を操作して輸出促進のために人民元のレートを無理やり下げている>と批判していました。しかし、米国はアフガニスタンとイラクでの戦争を遂行するために、国債を大量に中国に購入してもらっていました。イラク戦争が長期化し始めた2004年から2005年頃には、米国では不動産金融バブルが進行しており、でたらめな融資が横行し、いつバブルがはじけてもおかしくない程一触即発になっていました。中国は毎年、米国に大量に貿易黒字を出しており、ためこんだ米ドルで米国債を大量に購入していました。中国の貿易黒字が積み増しても対ドルで人民元のレートが上がらない理由がこれでした。そのため米金融当局は、中国政府が米国債を大量に売り払い、そこで得た米ドルを市場に大量放出するのを非常に怖れていました。それによって人民元が高騰して、ドルが暴落し、米国の長期金利が高騰すると米経済に破局が訪れる可能性が高かったためです。そこでブッシュ大統領らのタカ派的外交姿勢の裏で、水面下では米国政府が中国政府に対して、人民元レートを対ドルで急激に上げる必要はないとお願いしていたと言われていたのです。すなわち、万一、中国政府当局にため込んだ米国債を一気に放出されてしまうと、人民元が高騰し、その結果、ドル暴落→米金利が高騰し、不動産金融大バブルを崩壊させる最後の1突きになりえたのです。こんな風に、中国政府当局と米政府当局は報道とは違った水面下での太いパイプが存在しています。
こういったことから、日本人はメディアの報道に一喜一憂するのではなく、長期的に事態を観察し、ことの推移の一部ではなく、全体像をつかむ必要があります。そして、米国に追随するのではなく、日本の立ち位置というものを主体性をもって考えておかなくてはならないと思います。
*世界最大の米国債保有国、中国がそれを売れない悩ましい理由( 酒井吉廣:中部大学経営情報学部教授)ダイヤモンドオンライン
https://diamond.jp/articles/-/256823 「2020年3月末時点で、中国は1兆816億ドルの米国債を保有しています。これは1兆2717億ドルを保有する日本に次いで2番目で、米ドル債全体の約16%を占めています。香港が2453億ドル保有していますので、香港を中国の一部と仮定すれば、中国は実は世界最大の米国債保有国なのです。もし中国がこの米国債を売却すれば、米国債市場は大混乱に陥り、米国は新発債(新規に発行される債券)を出せなくなる可能性があります。」
|