ニューヨークタイムズは、プーチンの権力の掌握力が弱まったとみて、独裁的政権が終末を迎える可能性について触れた。側近が来年3月のロシアの大統領選*にプーチンに出馬をしないように求める可能性である。以下の箇所は、モスクワの新聞編集者に話を聞いた時のメモだ。要は、プーチンはもはや、エリートたちの財産と安全を保障するパワーがないと見切りをつけられたのかもしれない、ということなのだ。
NYT <Konstantin Remchukov(**), a Moscow newspaper editor with Kremlin connections, said in a telephone interview that what once had seemed unthinkable was now possible: that people close to Mr. Putin could seek to persuade him not to stand for re-election in Russia’s presidential vote next spring. With Saturday’s events, he said, Mr. Putin had conclusively lost his status as the guarantor of the elite’s wealth and security.>
このことは、プリゴジンの傭兵軍団がモスクワを目指して北上していた時にオリガルヒと呼ばれる大富豪たちが私有ジェットでモスクワを離れて、中にはトルコまで移動したという情報が飛び交っていたことと響きあう。さらに、今回の反乱が起きたのは、英国ではウクライナ再建のためにロシアのオリガルヒの財産が没収されるべきだという声明が報じられた***直後だった。またEUでもウクライナ再建のためにロシア大富豪の資産を没収する方針が検討されている。今回のニューヨークタイムズの情報を読むと、ほぼ四半世紀トップの座にい続けたプーチンと言えども、ロシアの政財界のエリートたちの支持を失ったら、政権基盤が一瞬になくなってしまう可能性があることがわかる。そして、反乱を指揮したプリゴジン氏を放免したことも、プーチンの弱さを印象づけた形になった。
私が一連のプロセスで疑問に思ったことは、米諜報機関がプリゴジン氏の反乱の準備を察知して政府高官に水曜日には報告していたのに対して、なぜプーチンは反乱を察知し得なかったのだろうかということだ。ロシア軍、ロシアの諜報機関とプーチンの間のコミュニケーションにも問題があったのかもしれない。すなわち、ウクライナ戦争の見込み違いも含め、プーチンのもとに正確な情報がタイムリーに届いていない可能性もある。
*カギを握る2つの「2024年大統領選挙」、ロシアのウクライナ全面侵攻から1年を経て(コラム執筆:坂本 正樹/丸紅経済研究所)
https://media.monex.co.jp/articles/-/21509
**RENOWNED RUSSIAN JOURNALIST KONSTANTIN REMCHUKOV LEADS PRIVATE DISCUSSION ON LATEST DEVELOPMENTS IN RUSSIAN POLITICS
https://cftni.org/recent-events/renowned-russian-journalist-konstantin-remchukov-leads-private-discussion-on-latest-developments-in-russian-politics/
***ガーディアンの記事(今年6月17日) UK ‘should seize oligarchs’ assets to pay for reconstruction of Ukraine’(ウクライナ再建のためロシアのオリガルヒの資産を没収すべきだ)
https://www.theguardian.com/world/2023/jun/17/uk-should-seize-oligarchs-assets-to-pay-for-reconstruction-of-ukraine
オリガルヒは1990年代、ソ連崩壊後、ロシア政府が現金収入を求め、かつての国営企業や国家資産を民営化し、切り売りした時に生まれた。彼らは廉価でそれらを取得し、巨額の富を得たのである。1990年代のロシアは資本主義を急激に導入しようとしたため、モノやサービスの価格を自由化したが、物価を安定させることができず、ハイパーインフレが起きた。闇市場が生まれ、権力の取り巻きとなった一部の者たちは富を増していった。昨日までのソ連の建前はもはやなかった。そして、それを推進したエリツィン大統領とその取り巻きの腐敗をKGBの局員だったプーチンが脅して、1999年にエリツィンを辞職させ、自ら大統領代行に就任し、2000年の大統領選で正式に大統領に選出された。プーチンは90年代にマフィア化していたロシアの激変する経済界を統制することに成功した。プーチンは90年代の連邦国家の分裂後、ロシアを再び世界の大国にすることを目指し、大統領職を持続してきた。オリガルヒの中で、プーチン大統領を批判した者の中には謎の死を遂げてきた者もいる。ウクライナへの侵攻後もそうした死者が報じられている。
●ロシアの主なオルガリヒ(ウィキぺディア参照)
ガスプロムグループ: ヴィクトル・チェルノムイルジン、 レム・ヴャヒレフ、アレクセイ・ミレル ルクオイルグループ: ヴァギト・アレクペロフ シブネフチグループ: ロマン・アブラモヴィッチ ロスネフチ: セルゲイ・ボグダンチコフ 統一エネルギーシステム: アナトリー・チュバイス ロシア・アルミニウム(ルサール): オレグ・デリパスカ(オレグ・ジェリパスカ) アルファ・グループ(アリファ・グループ): ミハイル・フリードマン、 ピョートル・アベン(ピョートル・アーヴェン) インターロス・グループ(ノリリスク・ニッケル): ウラジーミル・ポターニン、ミハイル・プロホロフ ノボリペツク製鉄所: ウラジーミル・リシン レノヴァ: ヴィクトル・ヴェクセリベルク システマ: ウラジーミル・イェフトゥシェンコフ セヴェルスターリ: アレクセイ・モルダショフ(英語版) ロステック: セルゲイ・チェメゾフ メトロポールグループ: ミハイル・スリペンチュク ストロイガスモンタージュ: ボリス・ロマノヴィチ・ローテンベルク、 アルカディ・ローテンベルク ノヴァテク:ゲンナジー・チムチェンコ、 レオニード・ミケルソン マグニトゴルスク製鉄所:ヴィクトル・ラシュニコフ
●Curious Number Of Russian Oligarchs Have Died Since Invasion Of Ukraine(ウクライナ侵攻後、オリガルヒが多数死んだことを報じている)
https://www.youtube.com/watch?v=tkZOTXt1Uhg
●The Rise And Fall Of Russian Oligarchs | Rise And Fall | Business Insider (オリガルヒがどう生まれて、どうなってきたかを時系列で解説している。彼らはロシアの外部、すなわちEUや英国などに別荘を買ったり、資産を預けたりしているが、今、ウクライナ再建のためにそれらの資産を没収する法律が作られつつあるという)
https://www.youtube.com/watch?v=7o70pQtjYEc
●How Putin's Oligarchs Hide Their Billions | Investigators(ViceNews)ロンドンでロシアのオリガルヒが巨額の資金をどう投資しているかを探る番組。
https://www.youtube.com/watch?v=ySyx-7CZJfg
●Mysterious, sudden new wave of Russian oligarch deaths | A Current Affair(1年でオリガルヒの23人が謎の死をとげたという)
https://www.youtube.com/watch?v=F89AcLKIHVI
■政治家・政党とジャーナリズム 絶対権力を作り出さないために その3 政敵を皆殺し(推定75万人超)にしたスターリン
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202210272238284
■ヨーロッパ人と安倍首相 日欧に共通することは政治の私物化に対する市民の憤り
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201703200057521
■独ソ不可侵条約への経緯を描く独仏の放送局ARTEのドキュメンタリー「ヒトラーとスターリンの条約」(1月13日から3月8日まで無料視聴可能)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201901222329382
■ロシアから見る特定秘密保護法案 〜日本がソビエト化する日〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201311241930270
■チリで学費無料化闘争のリーダー(35歳)が大統領に選出される
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202112231341294
■チリの学生デモとパリ五月革命
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201108180303014
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