「黄色いベスト」が人々にとって真の出来事(革命的事件)と呼ぶに値するものであったかどうかを評価できるのは今である。仮にもしそうだったのであれば、現在起きている暴動*は2005年の暴動**よりも幅広い国民の理解を得ているはずだろう。たとえメディアや政治の世界のエリートたちの言説は相変わらず、常に社会史の大きな潮流とは無縁で、それらはゴミ箱に入れるべきだとしても。もしこのように人々の理解が拡がったのであれば、この一連の流れから何か新しいもの、新しい社会の協定、つまり真の政治的発明が生まれるだろう(それはフランスの政治家たちが長い間やってこなかったものである。彼らは単に民衆を操作することだけで満足しているのだ)。
警察による数々の暴力の経験は、今や潜在的に、田舎 / 郊外、白人 / 非白人、所有者 / 非所有者などの分断を超えて、エリートの嘘に対抗して、労働者階級のあらゆる層を連合させる可能性がある。 新自由主義が根深く作り上げた労働者階級内の分裂を克服できるこの新しいチャンスに賭けることは、戦術的にリスクがあるが同時に、政治的に必要でもある(人種差別的な人々の解釈は、「彼ら」と「私たち」との間に一線を引いて分断する。その分断線は、これまで決まり文句だった「彼らエリートらは…」を「彼ら野蛮人どもは…」に書き直したバージョンである)。そして奇妙なことに、しかし重要なことだが、支配階級が警察に割り当てている役割を拒否することこそが、見下されてきた諸階級が形作る新しい同盟の軸となるに違いない。
しかしそれとは逆に、もし「黄色いベスト」に情動的に、あるいは実際に突き動かされた人びとが、現在起きている暴動に反対していることがわかれば、「黄色いベスト」は革命的な事件ではなかったか、あるいは逆に反革命的な事件だったことを意味するだろう。言い方を替えれば、それはファシストが覇権を握るための準備が一層深く進んでいることを意味するのだ。
とにかく、どちらの場合でも、今起きていることは重大な賭けではある。フランスの過去20年間で最も深刻な政治のエピソードは〜それはフランスにおける私たちのすべての敗北の源となったものなのだが〜2005年の暴動後に私たちが政治的な生き方を変革できなかったことと、警察および偽物の「共和国的秩序」という一種の宗教が導入されたことである。 これこそまさに、サルコジの名前が刻まれたものだ。そして、サルコジは今も権力の座にあり、その権力が失われたことは一度もない(マクロンの肩の動きを見てください。彼が憑依されていることがわかるでしょう)
今日起こっていることは、1992年のロサンゼルス暴動***の後に起こったことに類似する政治プロセスの出発点であるに違いない。そのプロセスは米国を大きく変えたものである。たとえ私たちがそこから(もちろん)遠く離れているとしても、それは政治的解放という思想を支えるためにも必要なものなのである。
そこで明快に記したい。これらの炎は私たちの夜の闇を照らすものだ。私たちはこの炎の政治的な意味をしっかりと訴えるべきだ。しかし、反乱に立ち上がった人々が非行や不合理や野蛮な行為を行うようなやり方に対しては反対しなければならない。フランス全土を巻き込む真の炎は、非行ではないし、怒りでもない。それは、極めて単純に、私たちの世界に真実を提示することなのである。
世界にその真実を突き付けることもまた「正義」と呼ばれるものだ。私たちは自身の能力を用いて、自身の真実に従い行動しながら、この世界について考えるだろう。世界に応える方法が行き詰まりになっていたとしても、また新たな方法を生み出すのだ。緊急事態宣言やなだめるような言葉ではない1つの反応、つまり変化していく反応をである。そう、私たち。私たちには言葉がある。私たちにとって、言葉は有効な道具なのだ。暴動の火に対して、私たちは言葉を対置しよう。暴動と同じくらい不穏で少し恐ろしいように思えるかもしれないが、私たちは暴動に対して、理性を与えることを躊躇してはいけない。つまり、 人びとが暴動を夜の闇や野蛮に貶めたいと思ったところならどこであれ理性を注入することだ。つまり、私たちは現実に持てる力の限りで、「ナンテールの蜂起」になろう。
パトリス・マニグリエ(哲学者 Patrice Maniglier)
*ルモンドの動画
https://www.youtube.com/watch?v=GqHzE0AeTuc
**2005年の動画
https://www.youtube.com/watch?v=tEudvA-8P9M
***1992年のLAの暴動 A Dangerous Night In L.A. | LA 92
https://www.youtube.com/watch?v=ojMEkPVfvKQ
■パリ郊外の都市で警察が17歳の少年を射殺 現場動画が公開され各地で抗議
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202306301957015
■ミネアポリスの警官による黒人の殺害、暴動 そしてバイデン大統領候補の声明
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202005311405150
■「黄色いベスト」による革命の可能性 パトリス・マニグリエ(哲学者)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201903080354155
■パリの「立ち上がる夜」 フランス現代哲学と政治の関係を参加しているパリ大学の哲学者に聞く Patrice Maniglier
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605292331240
■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社) 村上良太
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201807202152055
■私はなぜ刑務所の民営化と闘ってきたか 元受刑囚で「刑務所法律ニュース」のジャーナリストに聞く Interview : Alex Friedmann , Managing Editor of "Prison Legal News."
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612081813454
■刑務所を描いたアメリカ映画 「ロンゲストヤード」 多様性がアメリカの力の源泉であることを描いた傑作
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612131415132
■アメリカの警察による殺人 ジェローム・カラベル(カリフォルニア大学バークレイ校 名誉教授) “Police Killings Surpass the Worst Years of Lynching, Capital Punishment, and a Movement Responds ” By Jerome Karabel
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702191613380
■フランスの社会学者メラニー・ウルスさんの見つめる日本の「貧困」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201912170158472
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