政治家の世襲制は、自民党の首相や閣僚クラスの政治家たち自身やその子弟の中に脈々と受けつがれており、それこそが戦後復興してきた日本が低迷し、没落していくきっかけになったものと言えるでしょう。それはインドの低迷の原因がカースト制度という前近代の束縛にあったのと似ています。インドが金融やITで世界的に浮上できたのは、新しい職種であるIT業界はカースト制度の縛りがなく、誰でも参入できた職だったからです。
今、日本では新党を作ろうとしても世界的に見て高額の供託金(300万円〜600万円)※を納めなくてはならないため、基本的に過去の大政党に圧倒的に有利にできています。もちろん、一族が高い収入を得てきた世襲議員や世襲候補に圧倒的に有利です。富の蓄積に加えて、先代の支持母体と選挙運動員をそのまま引き継げます。
そして、さらにこの馬鹿高い供託金は女性にとっては男性以上に高いハードルとして聳えていることも指摘しておく必要があります。なぜならば、女性の平均賃金は男性よりも低い※※からです。供託金を貯めるにも大きな足かせが女性に課せられているのです。平均的には収入が比較的低い非正規雇用の人が立候補するのは至難の業でしょう。これでは、そうした階層の人の声が代表されにくいという意味で、職業差別ではないのでしょうか。憲法はそれを認めるのでしょうか?非正規雇用についても、女性の割合が圧倒的に高いことが統計でわかっています。※※※
ところが、硬派のジャーナリズムを標榜する民放の報道番組でも、世襲候補や世襲議員には非常に甘いように見受けられます。辛口ジャーナリストと言われるキャスターでも、イケメン世襲議員には好々爺としたおじいさん然として毒にも薬にもならないような質問しかできません。生まれによって一瞬に政界の中心に手が届くことの不条理を追求してこそ真のジャーナリズムではないのでしょうか。ところが、民放の報道部には政治家の子弟が入社していることが多いのです。元首相を父に持つTBS出身の小渕優子議員の場合が典型でしょう。誤解なきようにしたいのは、これは民間企業で息子や娘が父の後を継ぐ、ということとはまったく異なることである、ということです。公権力に関わることであり、そこでは最大限公平性が担保されなくてはならないのです。
こうした足元を見れば、日本は明治維新で近代化したというのは幻想であり、未だ前近代社会でしかないのではないかと思えてきます。この政治家の世襲制を禁止して、親に政治家を持つ子弟は、親とは異なる選挙区から立候補しなくてはならない、とかの規定を法的に定める必要があると思います。そうでなければ、職業選択上の公平さが欠けることになるでしょう。このことは日本政治の副次的な問題などではなく、まさに最大の問題なのです。そして、そのことが日本の現在の政治の不在を改めるきっかけにもなるのです。
※選挙に出馬するには世界最高額の費用がかかる日本。その制度が変わるかも?(選挙ドットコム)
https://go2senkyo.com/articles/2016/09/22/25158.html
※※日本企業、男女の賃金格差は平均3割 金融・保険が最大(日経)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC111CP0R10C23A7000000/
※※※ 就業をめぐる状況(男女共同参画局)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html 「令和2(2020)年における非正規雇用労働者の割合を見ると,女性は54.4%,男性は22.2%」
■野党共闘を考える 市民連合の中野晃一教授(上智大学)に聞く その2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201711080111133 中野教授「日本では新党を作るのが非常に難しい。安倍政権において右傾化が非常に加速度的に進んできたということはありますが、その前から日本の民主主義の実質は相当に形骸化しているというか、もともとかなり不完全だったという言い方もできると思うんです。供託金の高さとか、選挙運動についての様々な規制、禁止事項ということを踏まえてもそうなんです。市民が選挙に参加したり、政党を作ったりすることが極めて難しい。そういう意味で非民主的な選挙制度と言うのが小選挙区制に限らず、ある国なんだと思うんですね。」
■「闇の国々」はこうして生まれた ブノワ・ペータース(漫画脚本家)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702251423446
■読書家の新年の挨拶 〜 本の価値を守り、次代へ受け継いでいく 〜 書評家・ジャーナリスト、ジャン・ビヤンボーム(Jean Birnbaum)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701020023311
■フランスらしい洗練されたイラストを描くフランソワ・ラヴァールにインタビュー
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701040039263
■仏映画「河で眠る人」俳優パスカル・トゥルモさんにインタビュー
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201704071928035
■「個々の政治家以前に『構造的ラシスム(人種差別主義)』を解体しなくてはならないのです」 パリの討論会から
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201707291556216
■人づくり革命で大学を民間企業の新人研修施設に「革命」か
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201708071717181
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