自民党が連戦連勝している理由には様々なものがありますが、前にも書きましたように政治に国民が関心を持たないようにするマスメディアの不作為があります。そして、さらに言えば、そこにはマスメディアが自民党を守る護送船団方式があると言っても過言ではありません。その象徴を最近の例で挙げると、2021年9月に行われた自民党総裁選です。この時はテレビでも演説会が中継され、河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子が候補者として登壇しました。この模様は、アメリカの大統領予備選とよく似た雰囲気で、当時は岸田氏への期待は自民党員だけでなく、安倍政権の強権的姿勢にうんざりしていた国民にとっても高まっていました。
この選挙は、自民党員の選挙に過ぎず、国民の大半には投票権すらなかったにも関わらず、民主的選挙で首相が選ばれたかのような、一種の大統領選を感じさせるものでした。この大統領選を彷彿とさせる選挙擬制によって、国民はポスト安倍政権が確立し、過去のスキャンダルは過去になったと感じさせられたのです。多くの人が過去の政治の汚点を忘れ、清新な岸田政権にかつての大らかな政治を再建してもらえるに違いないと思ったのではなかったでしょうか。
2021年の自民党総裁選の2か月後に総選挙が行われ、自民党が圧勝したことは記憶に新しいところでしょう。本来ならば桜を見る会などのスキャンダルで野党が伸びてよいはずだったにも関わらず、このように自民党が圧勝した背景には、この一種の「大統領選挙」で勝って首相の座をつかんだ岸田文雄首相への期待が高まっていたことが挙げられます。この岸田首相はその後の2年間を見れば、国民の支持率は非常に低いばかりか、それまでメディアで喧伝されていたイメージを覆すものでした。
この好感のある岸田文雄のイメージにはマスメディアの関与がありました。以前、民放で安倍政権時代に放送された政治特番で、ポスト安倍首相について、プロの政治記者たちの投票で岸田文雄が首位だった、というものがありました。「プロの政治記者たち」のが具体的に誰だったかわかりませんが、こうした印象の積み上げが岸田首相への期待を高め、2021年の選挙での圧勝につながったのは間違いがありません。メディアによる自民党護送船団方式の具体例の1つがこれです。番組の中で、未来への伏線を作っておく、ということです。特段の実績もない世襲政治家である小泉進次郎への過剰かつ好意的な報道もそうです。自民党の現政権だけでなく、その先、さらにその先の首脳をも視聴者の頭に好感が持てるものとして刷り込んでいくものです。このことを考える時、共産党でも立憲民主党でもれいわ新撰組でもよいですが、そうした政党のポスト(リーダーの後継者)候補が小泉進次郎のように紹介されることがあるか、ということを想像してみると、そのえこひいきがわかろうと言うものです。
国民主権という見地からすれば、かなり欠陥のある選挙と政治報道であるにも関わらず、選挙の夜の特番では国民が選んだ政治家たちとして大々的にアピールされることになります。その意味で、2021年の自民党総裁選はそうした擬制の象徴に思えてなりません。国民を政治から遠ざければ遠ざけるほどに、選挙の夜の特番でみんなで選んだと認識させる儀式が必要なのです。
●提案 参政権を行使するためには国内と国外の情報が不可欠であり、その意味で国民は情報を得る権利がある。その情報は企業の営利で 取捨選択されるべきものではなく、国民が政治について判断を下すうえで必要かどうかという選択の基準で行われるべきである。その意味で、情報へのアクセス権は水や空気へのアクセス権と同じである。
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