今回のハマスなどによるイスラエルへの攻撃と、イスラエルのガザに対する攻撃は夏の話題をすっかり忘れさせてしまったかに見える。それはイスラエル政府による司法改革で、多くの市民が抗議のデモを行った。その改革こそは司法の力を削ぎ、行政府の独裁を許してしまう憲法上の危機、民主主義の危機だったのである。
日本で報じられたかどうかわからないが、世界的には大きく報道された*。イスラエルは一院制議会であるが、これは建国から周辺諸国・諸勢力との戦闘を繰り返してきた歴史が語るように、慎重に国会の両院で議論を繰り返す時間を省略する危機管理の効力がある。しかし、民主主義の見地からすれば安易に法制度を作ったり、戦争を容認したりと弊害をも起こしかねない。さらに、この夏の司法制度改革は、もともと国会による行政府へのチェック力が弱かったところに、司法によるチェック力を弱めるものだった。そこで多くの市民がデモに参加したのである。ナチスの歴史を学べば、権力分立のない政治システムにおける独裁政府がいかに危険かわかるはずだ。
*Guardean news (Israel sees rival rallies ahead of key judicial overhaul vote)
https://www.youtube.com/watch?v=hRD9pSvX57o ABC(Hundreds of thousands of Israelis protest judiciary reform)
https://www.youtube.com/watch?v=q3LUj5ZUrNE 陰謀論と呼ぶことは避けたい。しかし、このタイミングでの戦闘では、批判が強まっていたイスラエル政府の威信が回復する形になったと思われる。そして、結果的に欧州の諸政府や日本政府、米政府はイスラエルへのコミットメントを強める結果となっている。イスラエルのガザの市民に対する報復のあり方に世界各地で抗議集会やデモが行われている。これは同時に、イスラエルの「民主主義」の問題でもある。イスラエルの人々にとってこのような報復はさらなる戦闘を呼び起こしてしまうために、イスラエルの人々自身にとっても良い解決策ではない。この問題の抜本的解決には、イスラエル国内でこれを良くないと考える市民の力が伸びることが大切だ。そのためにも宗教極右をバックにつけたイスラエル行政府の独裁的傾向が市民の力で制御される必要があるだろう。
村上良太
■「イスラエル司法改革に市民の抗議10万人」「三権分立の崩壊懸念」「民主主義を守れ」 澤藤統一郎(さわふじとういちろう):弁護士
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202302190939070 「市民の憤りの対象となっている『ネタニヤフ流・司法制度改革』の問題点は二つ。その一は『最高裁の判断を国会が多数決で覆すことができる』という三権分立の根幹に関わる制度「改革」案。そしてもう一つは、『裁判官の任命人事への政府の関与の拡大』だという。任命時からの裁判官統制で、司法を骨抜きにしようという魂胆。政権側は、『裁判所は民主的な組織ではない。改革案こそが民主主義の精神に合致したもの』という。言わば、三権分立を崩壊させて、ときの政権の独裁を図ろうというもの。これを『民主主義』の名のもとに断行しようというのだ。なるほど、市民が『三権分立を守れ』『民主主義を守れ』と立ち上がらざるを得ない事態である」(ちきゅう座から転載)
■イスラエルで大規模デモ 最高裁の違憲判決を下す力を封じた法案に国民の怒り
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202307250734242 「イスラエルで大規模なデモが起きている。これは極右と右派のネタニヤフ首相率いる連立与党が最高裁が政府の決定に違憲判決を下す力を削ぐ法案を通したことにある。デモは各地で行われている模様。以下はGlobal Newsの動画。
https://www.youtube.com/watch?v=15jMKdCeyuE ニューヨークタイムズによれば120人の一院制議会で与党が僅差で数が多いため(NYTによれば与党連合が64議席)、野党は投票を放棄したとされる。最高裁の違憲審査の力を、与党が数を頼りに通した「法律」で削ぐ、というところが権力分立を傷つけ、独裁に近づいたと見なされているのだろう。
■朝日新聞とは? 2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201008291040590
■朝日新聞とは? 3
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201009080055493
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