私は2月19日ベリタ発信の記事で次のように書いた。引用「さらに福浦断層と平行するように沖合4kmほどには兜岩沖断層が、原発から北には今回の地震でも揺れの強度が変化した境目にある富来川南岸断層が存在し、これら断層は一連の地震活動で動く可能性がある。…」 引用終了
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202401192219355
◎ 動いた富来川南岸断層
今後の地震活動で動くかも、といった趣旨だったのだが、今回の地震活動で動いた可能性を指摘したのが、鈴木康弘名古屋大教授のチームだ。 共同通信の記事「内陸の活断層、ずれ確認 志賀原発の北9キロ、能登地震」(1月16日)に以下の記載がある。
「震源に近い石川県志賀町で「富来川南岸断層」とみられる地表のずれやたわみが長さ3キロ以上続いているのが見つかった。」
これは16日の日本地理学会災害対応チームの調査で分かったという。 「現地は北陸電力志賀原発の北約9キロ。北陸電はこの活断層の存在を否定していたが、2021年5月に原子力規制委員会に修正を申告。活動性が否定できないとして長さ9キロの活断層としている」 志賀原発からわずか9キロで断層が動いたとしたら、原発の地盤にも影響を与えた可能性がある。
実は、富来川南岸断層は敷地内を走るS−1断層などと繋がっており、仮に原発内の断層が活断層ではないと結論づけたとしても、富来川南岸断層の活動に引きずられて動く「副断層」である可能性があるからだ。
11年前にこの断層について「明らかに活断層」と指摘していたのは渡辺満久東洋大教授だ。 2012年9月1日の朝日新聞は『富来川南岸断層は志賀原発の約9キロ北側に東西に延び、断層を挟んで南北で20メートルほどの地層のずれがある。渡辺教授らの研究グループは今年5月の学会で、原発の耐震安全性を考慮しなければならない13万〜12万年前以降に動いた断層だと指摘し、「耐震設計上考慮すべきだ」とアピールした。』と紹介している。
◎北陸電力は「動く可能性はないと否定した」断層
このS−1断層を含む敷地内の断層について規制委が結論づけたのはつい最近だ。2023年3月3日の審査会合において志賀原発の敷地内にある断層が13万〜12万年前以降には活動していないとして「将来活動する可能性のある断層等」(「活断層等」)にはあたらないとする北陸電力の説明が了承された。 この断層が活断層とされると原発は廃炉になるはずだったが、この審査会合で「命拾い」したというわけ。
しかし2016年4月には「志賀原子力発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」が13万〜12万年前以降の活動が否定できないとしていた。 この有識者会議の結論と、反対の結論を出した規制委は、しかし有識者会議のメンバーに意見を聞くということはしなかった。 ではいったい有識者会議とは何だったのか。 志賀原発敷地内の断層がどうなっているのか、活動していたのか、屋外変圧器の破損は地盤変状との関係はないのか、そういったことを調べないと結論は出せない。 昨年の審査会合の結論は無効になったとするべきであろう。
△関連記事紹介
M7級予想できた「能登半島地震」 沿岸活断層、認定急げ 「活断層は決して千年に一度だけ大地震を起こすわけではない」
鈴木康弘(名古屋大学教授、日本活断層学会長)
日本の過去百年間の内陸地震としては最大である、マグニチュード(M)7.6の能登半島地震が1日、起きた。 これは決して予測困難な珍しい大地震ではない。 能登半島北岸の直線的な海岸線が、沿岸の海底にある活断層の活動によってできたものであることを知る研究者は多かった。地震は当然想定されるべきだったが、それができず不意打ちの形になってしまった。 こうした沿岸海域の活断層の認定は急務である。 まずは沿岸海底の詳しい測量をして、陸上の活断層と同様な活断層図を整備すべきである。
1995年の阪神淡路大震災以後、陸上だけでなく海域の活断層調査も進み、活断層が起こす地震へ備える取り組みが進んだが、海岸沿いの海域の活断層は盲点である。 その理由は、こうした海域での活断層認定の難しさにある。陸上の活動で形成された地形を手掛かりに見つけられるし、地下 を掘削して調べることも可能だ。
一方、海域では探査船から音波を出し、海底下の地質構造を調べる。 だが、能登半島北岸のように海岸近くにある活断層を音波探査で調べることは難しい。活断層であるかどうかを判定できる新しい堆積物が薄いために見極めが難しい上漁業への影響も懸念される。
こうした問題を補うため、最近は、海底でも陸上と同じように地形から活断層を認定する技術が進んだ。 能登半島では後藤秀昭・広島大准教授らが調査し、北岸をほぼ東西に走る長大な海底活断層の存在を指摘していた。 これが今回の地震を起こした断層とみられるが、いまだに音波探査による地質調査が重視され、後藤氏らの結果は活断層図に反映されていない。
さらにもうひとつ問題がある。 海底活断層は短く認定されがちで、能登半島北岸沖にある断層の長さも20km程度の短い断層に分割されるとされていた。 短い断層は大きな地震を起こさないとされるため、大地震の危険性を見逃すことになる。
2007年の新潟県中越沖地震も海底活断層によるものだったが、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)を巡る政府の審査では音波探査が過度に重視された結果、大幅な過小評価になっていた。 改めて長大な断層による地震発生に対して正しく認識したい。2016年の熊本地震もその例であり、M6.5の前震の後、M7.3の本震が起きた。
能登ではこの数年間、地震活動が続き、今回の地震につながった。 このように相次ぐ地震は活断層が引き起こす一連のものである可能性が高い。 熊本も能登も、前震でも大きな被害が起きたことを考えると、活断層は決して千年に一度だけ大地震を起こすわけではない。 政府の地震調査委員会はこうした一連の活動について分かりやすく説明して、国民の防災意識を高めてほしい。 (1月16日「東京新聞」夕刊5面より)
【すずきやすひろ】2004年から現職。日本活断層学会長。 専門は変動地形学、災害地理学。 ※日本活断層学会HP https://jsaf.info/jishin/2024/01/20240101221500.html
△情報提供:竹内憲一(日本地理学会会員)
1.「渡辺先生の論文と関連する原発の安全審査に関する提言」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/88/3/88_235/_article/-char/ja/ 能登半島南西岸変動地形と地震性隆起,渡辺満久・中村雄太・鈴木康弘 2.変動地形研究者が果たすべき役割,渡辺満久 −原子力施設周辺の活断層評価−
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