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2024年03月20日19時55分掲載
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イスラエル/パレスチナ
ガザ虐殺と並行し、もうひとつのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸でもイスラエルの暴力が続く
イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでのジェノサイドは依然として続き、餓死する子どもが続出するなど最悪の状況が続いている。もうひとつのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でも、それに呼応するようにイスラエルによるパレスチナ民間人に対する暴力行為が拡がり、殺害される事例も頻発している。国際人権団体アムネスティによる調査はその一部を明らかにしている。以下、アムネスティ国際事務局が発信したその実態を紹介する。(大野和興)
ー以下「アムネスティ国際ニュース」2024年2月5日から
世界がガザを注視する中、イスラエルはこの4ヵ月間、占領するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でもパレスチナの民間人に暴力の限りを尽くしてきた。抗議するパレスチナ人を殺傷力が高い武器で容赦なく殺害し、負傷者の救助を妨害してきた。
アムネスティは特に目にあまる昨年10月の3件と11月の1件の事例を調査した。この4件では、合わせて子ども7人を含むパレスチナ人20人が、イスラエル軍の違法な攻撃で亡くなった。調査は目撃者10人を含む12人に対するリモートでの聞き取りと、「クライシス・エビデンス・ラボ」による動画19本と写真4点の検証による。 調査では、重症を負った人たちへの救急活動が阻まれ、また救急隊員や救助に参加した人たちがイスラエル軍から攻撃を受けていたことも明らかになった。
イスラエルはこの数カ月間、ヨルダン川西岸地区での攻撃の手を強め、多数の死者や重症者を出している。最近では、医療従事者を装って襲いかかかる事例もあった。2023年には、少なくとも507人(うち子ども81人)のパレスチナ人が西岸地区で殺害された。この人数は、国連人道問題調整事務所(OCHA)が集計を始めた2005年以降で最も多かった。
ガザ地区への激しい爆撃と凶悪な犯罪行為の陰で、イスラエルはヨルダン川西岸地区でも民間人の人命を軽視した暴力行為で多数の死者を出してきた。こうした違法な殺害は露骨な国際人権法違反だが、イスラエルがパレスチナ人に対する抑圧と支配の体制を維持する中、処罰を免れている。 アムネスティが調査した事例から、西岸地区でイスラエル軍が違法な武力の行使で多数の民間人が命を落としていることは明らかだ。不処罰が続く中、この問題への対処は、国際司法制度に委ねられている。国際刑事裁判所の検察官は、イスラエルによる一連の殺害や傷害を戦争犯罪の可能性があるとして捜査しなければならない。
2023年10月7日以降、西岸地区でイスラエルの治安部隊は拘束されているパレスチナ人の解放を求める集会を武力で解散させ、抗議行動を排除した。10月7日から12月31日までの3カ月足らずで、パレスチナ人299人が西岸地区で殺害された。この人数は2023年10月までの9カ月間と比べ5割も増えている。また、OCHAによると、今年1月1日から1月29日までに61人以上(うち子ども13人)のパレスチナ人がイスラエルの暴力の犠牲になった。
アムネスティは11月26日、イスラエルの軍報道官とエルサレム地区司令官に、調査した4件に関する情報提供を求めた。この記事を掲載する2月5日現在、回答は届いていない。アムネスティは、ヨルダン川西岸地区北部で続くイスラエル当局による過剰な武力行使の他の事例についても調査を続けている。
◆ヌールシャムスでの10月の襲撃
10月7日以降、イスラエルはヨルダン川西岸地区全域で襲撃を強めてきた。OCHAによると、負傷者4,382人のうち54%以上が、過去4ヵ月間に負傷していた。 象徴的な例としてはイスラエル軍と国境警察が10月19日、トゥルカレムのヌールシャムス難民キャンプを30時間にもわたり襲撃し、過剰な武力を行使した。パレスチナ人13人(うち子ども6人)が殺害され、15人が拘束された。報道によると、軍情報筋の話としてパレスチナ人から爆発物が投げつけられ、国境警備隊員1人が死亡、9人が負傷した。
アムネスティが聞き取りをした住民によると、40家屋以上がイスラエル兵士の襲撃を受け、家財などを破壊され、自宅の壁に狙撃用の穴を開けられたという。また、ブルドーザーで道路や電力網、水道管などが破壊され、水や電気が使えなくなった。 犠牲者の一人タハ・マハミドさん(15歳)は、イスラエル軍が撤退したかどうかを確認するために外に出たところを撃たれた。家族が撮った動画には、家の近くで兵士がいるかどうか見まわしているマハミドさんが、3発の銃声が鳴り響いた直後、倒れ込む様子が映っていた。
マハミドさんの姉は「あの人たちは弟に何のチャンスも与えなかった。容赦なく引き金を引き、1発は足に、2発目は腹に、3発目は目に命中した」とアムネスティに話した。 別の目撃者は「負傷したマハミドさんを安全な場所に運ぼうとする父親が、背中を撃たれた。両手を上げて武器を所持していないことを訴えていた」と話した。
2人とも何の脅威にもなっていなかった。この無用な銃撃は、故意の殺害や傷害として戦争犯罪の可能性があり、捜査されるべきだ。
マハミドさんが銃弾を受けてからおよそ12時間後、イスラエル軍はマハミドさんの実家を襲撃し、10時間にわたり家族を一室に閉じ込めた。その上、一家の2つ部屋の壁に狙撃用の穴を開けた。 複数の動画で、イスラエル軍のブルドーザーが難民キャンプ内の道路を破壊している様子が確認できた。また、パレスチナ赤新月社(PRCS)が投稿した動画では、ヌールシャムス難民キャンプ内の道路の一部が破壊され、襲撃による怪我人の搬送ができなくなっている状況を伝えていた。
◆パレスチナ人の抗議行動に過剰な武力行使
ガザのパレスチナ人と連帯する抗議行動が、10月7日以降、ヨルダン川西岸地区全域で頻繁に行われてきた。これらのデモはおおむね平和的に行われていたが、イスラエル軍の駐留や武力介入に対抗して石を投げる者の姿も見られた。 国際人権法や警察の武力を規制する国際基準では、若者による投石に対するイスラエル軍の武力の行使は、生命に対する権利と相反するものである。法執行における武力行使は、生命に対する差し迫った脅威がある場合に限定される。
10月13日にトゥルカレムでの非道な攻撃では、2人の目撃者によると、ガザの人たちと連帯する80人以上の群衆に対して、監視塔や家屋の屋上にいるイスラエル軍兵士が発砲した。 現場にいた記者2人によれば、イスラエル軍は群衆に向けて催涙ガス弾を発砲し、その直後には警告も発することなく実弾を発砲し、4人が銃弾を受けて負傷した。数分後、イスラエル軍は「プレス」と書かれたベストを着用していたにもかかわらず記者2人に向かって発砲した。記者は3人の子どもと一緒に身を隠し、銃撃が続いた2時間ほど、その場を離れることができなかった。
この2人の記者は、自転車で通り過ぎた男性がイスラエル兵の銃弾を受けて負傷したのを目撃した。また、記者の1人は、別のデモ参加者が頭を撃たれて地面に倒れ込み、その後、息を引きとった様子を語った。
11月27日には、ラマラ近郊のベイトゥニアで軍が群衆に対し過度の武力を行使した。群衆は、イスラエルとハマスが合意した、ガザでの人道的な戦闘休止中に、刑務所から解放された人質を歓迎するために集まっていた。
アムネスティに証言した目撃者によると、イスラエル軍は集まっていたパレスチナ人の群衆に軍用ジープで突っ込んだという。様子を見ていた住民の1人が胸を撃たれ、周囲にいた人たちの協力で病院に運ばれたが、まもなく息絶えた。 アムネスティのクライシス・エビデンス・ラボが検証した動画には、一部のデモ参加者が投石したり、タイヤを燃やしたり、ブルドーザーに火炎瓶を投げたりする様子が映っていた。
国際法は、投石やタイヤを燃やす行為に対する銃器の使用を正当化しておらず、身体に差し迫った脅威を与えていない相手に対する殺傷力の行使を禁じている。これらの銃撃は、故意の殺害、故意に多大な苦痛や重傷を負わせたという戦争犯罪の可能性があるとして捜査されるべきだ。
目撃者の1人は、「軍は私たちが拘束されていた人たちの解放を喜ぶのを妨害し、自分たちの支配を主張しようとしている」と語っ た。
◆救急車への発砲: 医療支援の妨害
被占領パレスチナ地域全域におけるイスラエル軍による医療支援の妨害は、アムネスティが長年の調査で明らかにしてきたように日常的に行われており、イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離政策)の一環である。国際法に基づき、イスラエル軍には自軍によって負傷した者が治療を受けられるようにする義務がある。 アムネスティは、デモや襲撃で重傷を負った人たちが必要とする医療支援がイスラエル軍に妨害された5件の事例を調べた。軍は負傷者の手当をする医療従事者などにも発砲していたことも確認した。
パレスチナ人とイスラエル国境警察の間の衝突が発生したとき、パレスチナ人は花火を使用し、警官は実弾を発射した。アムネスティが検証した3本の動画は、花火がパトカーの後部や側面に当たる様子をさまざまな角度から捉えていた。 この衝突中に男性が銃弾を受け、その男性を安全な場所に移そうとした別の男性も国境警察に頭を撃たれた。目撃者によると、その後イスラエル当局は2人を助けようとした人たちに「撃つぞ」と脅し、救急車の到着を妨害した。銃弾を受けた2人はその後、イスラエル軍の救急車で運ばれたが、遺体はまだ家族のもとには返されていない。
10月13日のトゥルカレムであった抗議デモの弾圧でも、自転車に乗った男性がイスラエル軍兵士に撃たれ、助けようとした救急隊員も足を撃たれて転倒した。 その様子を目撃した記者は「(自転車の)男性は悲鳴をあげていた。救急隊員が男性を運び出そうとしたが、イスラエル軍の狙撃兵は発砲をやめなかった。医療関係者と救急車も銃撃にさらされ続けた」とアムネスティに語った。
3つ目の事例では、10月19日のヌールシャムスへの襲撃の際、2台の救急車が難民キャンプの入口で止められ、負傷者がいるところまで行くことができなかった。住民らは自分の車での負傷者の搬送を余儀なくされたという。 10月19日に負傷した息子を安全な場所へ運ぼうとしたイブラヒム・マハミドさんが銃弾を受けたところを見た家族によると、マハミドさんは1時間以上手当てを受けることができなかった。救急隊員は難民キャンプ入口でイスラエル軍に停止を命じられたため、マハミドさんがいる場所に着くのに1時間以上もかかった。マハミドさんはその間ずっと出血が続いたという。
11月9日にジェニン全域での襲撃の際は、イスラエル軍は難民キャンプ内で銃撃を受けた負傷者を治療しようとしていた医療従事者を攻撃した。OCHAの報告によると、イスラエル軍はこの軍事作戦で13人のパレスチナ人を殺害した。 目撃者によると、イスラエル軍は、ジェニン難民キャンプのパレスチナ赤新月社の救急車の中にいた隊員の1人に発砲した。イスラエル軍は、パレスチナ赤新月社の他の救急車2台も銃撃した。動画では、救急車の約2メートル前方の道路に銃弾が当たる様子が確認できた。この時の様子について、救急隊員の1人は「通りを挟んだ向かい側の建物にいた他の救急隊員2人も狙撃兵に撃たれた」とアムネスティに語った。
国際法は、病人や負傷者、医療関係者への尊重と保護を求めている。治療を受けようとする行為の妨害は、健康に対する権利、人の安全に対する権利、非人道的な扱いからの自由の権利の侵害であり、生命の権利の侵害につながる可能性がある。 アムネスティは、イスラエル軍による違法な殺害と、違法な殺害がパレスチナ人を閉じ込めてきたアパルトヘイトにどのように組み込まれているかを長年、調査・報告してきた。国際刑事裁判所(ICC)の検察官は今こそ、パレスチナに関わる捜査の中でこれらの殺害とアパルトヘイトの罪を捜査すべきだ。
◆国際法基準の背景
ヨルダン川西岸地区ではイスラエルが占領者であり、その行動は、ジュネーブ第4条約と占領法に加え、国際人権法に基づく義務に拘束されている。 西岸地区でのデモの取り締まりやその他の法執行機能の遂行において、イスラエル軍は人権だけでなく、法執行機関がどのように人権を擁護しなければならないかを詳述した国際基準(法執行官による力と銃器の使用に関する国連基本原則など)を尊重しなければならない。
これらの基準は、真に必要な場合を除き武力の行使を禁止し、最後の手段としてのみの銃器の使用を求めている。人を死に至らしめる銃器の意図的な使用は、人命を守るために他に手段がない場合にのみ認められる。保護されるべき人を意図的に殺害し、または多大な苦痛を与えることは、ジュネーブ第4条約の重大な違反であり、戦争犯罪である。
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