原子力発電に伴って発生する高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場施設の建設地をめぐり、処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)は、今年8月、建設候補地とされる北海道寿都町及び神恵内村で行った「文献調査」の最終報告書案を経済産業省の有識者会議に示した。同報告書案は事実上了承され、「文献調査」の次の段階である「概要調査」に進む可能性が出ている。
「文献調査」をめぐっては、「核のごみ」の地層処分が前提とされていることから、多くの専門家からその危険性を指摘する意見が出ている。また、候補地となっている地元住民には不安を抱えている者も多く、「文献調査」の受け入れ時から調査反対を訴える声も上がっていた。こうした状況に対応するため、事業者のNUMOは、地元住民に対する情報提供や意見交換を行い相互理解を深めることを目的として、文献調査の実施と並行して「対話の場」と称する住民説明の場を定期的に設けていた。
専門家による指摘や調査反対を訴える地元住民がいる中、NUMOは、「対話の場」を通じて地層処分事業に関する地元住民への理解が深まったと総括して、「文献調査」の最終報告書案を経産省に提出した。しかし、この「対話の場」には、NUMOが提供する情報や参加者に偏りがあり、政府が決定した基本方針に違反しているとの批判がある他、双方向のやり取りの不足などが指摘されており、「住民の声が反映されていない」という批判も上がっている。
「対話の場」のあり方やその運営などが疑問視される中、「原子力市民委員会 」は、9月27日、「核のごみ処分についての『対話』はどうあるべきか─ 市民検証の実践から考える」と題するオンライントークを開催。発言者の高野聡さん(原子力資料情報室)は、「北海道寿都町で行われた『対話の場』は、特に不公正に運営されたと思っている。例えば、多様な地元住民らと意見交換するとされているにも関わらず、実際の参加者は応募した調査賛成派の者で固められており、また、年齢やジェンダーにも偏りがあった。更に、調査賛成派の要求ばかりが反映され、少数派である反対派のメンバーが要求したこと(地層処分に批判的な専門家の意見を聞きたいとする要求など)は、一度も実現しなかった」として、「対話の場」がNUMOにとって都合の良い調査賛成派を優遇した形で運営されたことを批判。
また、「対話の場」のあり方を探求・創造する輪を広げるために活動している「核のごみに関する対話を考える市民プロジェクト」(以下、「市民プロジェクト」)の宮崎汐里さんは、「寿都町では、文献調査の受け入れが公表されて以降、調査賛成派や反対派の対立や調査の受け入れに伴う葛藤や不安が蔓延して混乱状態にあった。そうした中での『対話の場』には前向きにはなれない地元住民もおり、これを通じて懸念が解消されたとは全然言えない状況である」としつつ、「対話の場」に関連した勉強会については「調査賛成派と反対派で座席が分かれており、住民同士の対立を生みやすい状況であったことからも、自身の意見を言い出せる環境にはなかった」などと、そもそも対話が成立しにくい場であったことを指摘。
「市民プロジェクト」は、「対話の場」を含めて今回実施された文献調査が、地元住民の精神的な分断を深めた可能性があるという問題意識から、地域社会に対して与えた影響を市民の目線で検証し、その結果をまとめたレポート(※)を作成した。この検証レポートは経産省の特定放射性廃棄物小委員会にも提出されている。
「対話」とは?辞書には「2人が向かい合って話すこと」とあり、インターネットの用語解説サイトでは、「お互いの立場や意見の違いを理解してそのずれを擦り合わせること」「意見や立場を超えてお互いの理解を深めること」などと説明されている。サイトによって若干の言い回しの違いはあるが、その意味合いは相互理解を深めることを目的に使われる言葉である。
事業者のNUMOが「対話の場」と称して行ったものには、相互理解を深める「対話」の要素はあったのであろうか。処分事業を何としても進める意向のNUMOは、概要調査に進むことを前提として文献調査を行なったようにも見える。そのNUMOが主導した「対話の場」は、「地元住民との相互理解を深めた」とする体裁を整えることだけを目的としたものになってはいないだろうか。
今年6月からは佐賀県玄海町を対象にした文献調査が行われており、今後、北海道の寿都町及び神恵内村と同様に「対話の場」が開かれる見通しである。これまでの「対話の場」で浮かび上がった問題点を改善し、NUMOの恣意的なものにするのではなく、広く調査反対派の意見も反映される場にする必要がある。今後の動向に注視したい。
(※)「市民プロジェクト」検証レポート
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/005_s05_00.pdf
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