「現代の遊牧民〜モダン・ノマドの日記〜」を寄稿していただいているスロベニア人の作家、アンドレイ・モロビッチ氏はサハラを放浪しながら文章を書き続けている。モロビッチ氏の「日記」が興味深いのは主人公がアフリカの名もない民、その一人一人であることだ。そこがこれまでしばしば描かれてきたアフリカ人の肖像と大きく違っているように思う。
そんなモロビッチ氏の愛読書にアフリカにやってきた欧州人を描いたジョーゼフ・コンラッドの「闇の奥」がある。アフリカを訪ねた欧州人、モロビッチ氏自身が「闇の奥」をどう手に取って読んだのかは興味深い。モロビッチ氏はもう一人別の作家も読んでみる価値があるという。
「僕が強く薦める作家はスヴェン・リンドクヴィスト(Sven Lindqvist)です。スヴェン・リンドクヴィストの「 Exterminate all the brutes(この野蛮人を皆殺せ)」 「 Desert divers(砂漠のダイバーたち)「 Terra nullius(誰のものでもない土地)」です。」
しかし、僕にはまったく未知の作家だ。日本で翻訳が出ているのかどうかも知りえない。アマゾンのサイトを見ると、リンドクヴィスト氏の洋書が何冊か紹介されていた。ウィキペディアによれば生まれは1932年とされる。だとすると、現在、80歳近い年齢だ。スウェーデンの大物作家のようだ。
http://www.amazon.co.jp/Sven-Lindqvist/e/B001JP7VE8 リンドクヴィスト氏のウェブサイトもある。スウェーデン人の作家だが、ウェブサイトは英語でも記されている。以下はそれを参照したものである。
「誰のものでもない土地」はオーストラリアでアボリジニーがどういう処遇を受けてきたかをつづったもののようだ。
「砂漠のダイバーたち」はサンテグジュペリやピエール・ロチなどサハラに憧れを持った欧州作家たちの「夢想」をリンドクビスト氏がたどる旅を描いたもののようだ。リンドクビスト氏自身が青春時代にそれらの夢想の虜になったことがあるという。しかし、その夢想は一方的な思いだった。
「この野蛮人を皆殺せ」はナチによるホロコーストが何を起源に生まれたのか、その源を探ったもののようである。それはアフリカに渡った欧州人を指すものらしい。
リンドクヴィスト氏の本は多くの国々で翻訳されているようである。モロビッチ氏の推す本の解説を見ると、人種差別に批判的な視座を持つ作家である。その他、「空爆の歴史」という本もある。空爆の起源から「進化」を描いたもののようだ。
さらに、「頭蓋骨計測の間違い」という本もある。原題は'The skull measures mistake'である。レイシズム(人種差別主義)の研究はしばしばレイシスト(人種差別主義者)の研究に終始しがちだが、この本ではレイシズムに立ち向かった19世紀の男女22人を取り上げているそうだ。
もしかすると日本でも何か翻訳が出ているのかもしれないが、残念ながら書店で目にした記憶がない。海外を旅すると、そうした本にぶつかることがしばしばある。逆に言えばそれが外国を旅する面白さでもあると思う。
■スヴェン・リンドクヴィスト氏のウェブサイト
http://www.svenlindqvist.net/frameset.asp ウェブサイトの自己紹介によれば、1955年以来、30冊以上の本を出版したスウェーデンの作家である。ジャンルはルポルタージュ、エッセイ、警句、自伝、旅行記など。その多くがスウェーデンで論議を招いたとされる。国際的には中国、南米、アフリカを描いた本で著名だという。http://www.svenlindqvist.net/frameset.asp ■ジョーゼフ・コンラッド作「闇の奥」(岩波文庫)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201205041411295
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