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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年10月03日16時34分掲載
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検証・メディア
新トラスト委員長を迎えるBBC −経費削減、多様性の確保が大きな課題に
以下は「メディア展望」(新聞通信調査会発行)9月号に書いた拙稿に若干の補足をしたものです。
***
9月9日、英下院の文化・メディア・スポーツ委員会に、英フィナンシャル・タイムズ・グループの元CEOローナ・フェアヘッド氏(53歳)が姿を現した。
同氏はBBCトラストの次の委員長になるといわれている。BBCトラストとは、日本で言えばNHKの経営委員会にあたる。トラストは視聴者の代表としてBBCの活動をチェックし、戦略を決めてゆく。
トラストの委員選考には公募制が導入され,所管の文化・メディア・スポー省内の公職任命チームが選考作業を担当する。メディア担当相の助言に基づき,女王が任命する。
2011年に任命されたパッテン卿が健康上の理由で職を去り、次期引継ぎ者を探していたが、政府が有力に押しているのがフェアヘッド氏。最終的な任命前に、文化・メディア・スポーツ委員会(下院議員で構成される)に呼ばれ、質疑を受けた。
「朝起きたときから夜寝るまで、生活がBBCとともにある」と答えたフェアヘッド氏。幅広い番組を視聴しているというフェアヘッド氏の応答はおおむね好意的に受け止められた。公的な「面接」を無事に終えたようだ。トラストの委員長として女性を任命したかったという政府の意向に沿った人事になりそうだ。
フェアヘッド氏が統括するBBCは、一体どんな状況なのか。7月に発表された最新の年次報告書(2013-14年)を見ながら、BBCの現況、その背景や今後を考えてみたい。
BBCの収入は? 2013-14年度、BBCが徴収したテレビライセンス料(NHKの受信料に当たる。視聴家庭から徴収)は37億2200万ポンド(約6900億円)となった。ライセンス料でBBCは国内の活動をまかなっている。これを補足するのが商業部門による収入だ。今年度はBBCの番組を海外で販売する「BBCワールドワイド」などによる14億4100万ポンドとなった。
ーーリーチ力は?
BBCのリーチ力とはどの程度のものか?
年次報告書によると、英国の成人の96%がBBCのテレビ、ラジオ、オンラインのコンテンツのいずれかに毎週接している。一人当たり週に平均18.5時間接している計算となるという。昨年度と比較して1時間の減少である。
BBCのテレビ番組に15分以上接したことがある人は国内の99・6%。平均では1人で週に9時間視聴している。最も人気が高い番組はSFドラマ「ドクター・フー」だった。
英国の民放局では時間をずらせて全番組を放送する「タイムシフト」と呼ばれるチャンネルが複数設定されており、BBC及び他局ではBBCのiPlayer(アイプレイヤー)のような、番組再視聴用のオンデマンドサービスを提供している。それでも、テレビ番組を放送時に見るという人がまだ圧倒的に多い。ただし、その割合は次第に減少している。BBCも例外ではなく、13年度では84%が毎週BBCのテレビを視聴しているが、前年度は86%だった。
報告書が特記するのはモバイル機器(携帯電話、タブレット)を使って番組を視聴する人の急速な伸びだ。アイプレイヤーでの番組再視聴の数(特定の番組のリクエスト数)は2013年で30億に到達した。前年より33%増である。
2014年度から、BBCはアイプレイヤーをデジタルでBBCの番組を見る際の基幹プラットフォームとして位置づけるようになっている。
BBCのニュースサイトには今年年頭時点で2500万人の月間ユニークユーザーがあったという。「BBCのニュースに対する信頼度は依然として高い」。
ただし、2012年秋、BBCの元人気司会者が性犯罪者であった疑惑が発生し、BBCの管理体制の不備が指摘された。同時期に、老舗のニュース番組「ニューズナイト」での調査報道の失敗が明るみに出た。重なった失態の直前の信頼度よりは「若干低い」状態だという。
ーーいかに経費を節約したかを強調
年次報告書のBBCやほかの英メディアの報道を見ていると、お金に関するものが多い。BBC自身の報道でも、この1年でいかに経費を節約したかが強調されている。
背景にはこんな理由がある。日本の放送業では主要民放局が圧倒的な規模を誇るが、英国で予算額で比べた場合に最大級となるのが、ご承知のようにBBCだ。公から集めた資金で活動するBBCに対し、国民(そしてライバルとなる民放局や新聞社、その声を代弁するロビー団体、政治家)から資金の使い道をつまびらかにすること、つまり説明責任を果たすことへの強い要求が存在している。
「いかに経費を節約したか、いかに無駄なくライセンス料を視聴者のために使ったのか」を示す一つの場が年次報告書となる。
BBCがライセンス料を十分に効率的に使い、質の高い番組を届けたとなれば、国民に存在を納得してもらえる。同時に、10年に一度更新される、BBCの存在を保証する「王立憲章」や、ライセンス料の値上げや活動内容を規定する(政府との)「合意書」に向けての交渉もスムーズに行く。そんな目論見もBBCの側にある。
年次報告書によると、BBCはこの1年で3億7400万ポンドの経費を節約できたという。かねてから批判されてきた、一部の人気出演者への高額報酬も是正したと経営陣は述べている。例えば、10万ポンド以上の報酬をもらう「高額タレント」陣への合計の予算は2008年度時点で7100万ポンドだったが、13年度では4900万ポンドに減額された。それでも、他局や国民の一部からも「まだ巨額すぎる」という批判がたえない。
報告書全体の構成を眺めると、戦略を決める役目を持つトラストの評価と経営陣の見解とが交互に掲載される形となっている。
トラストがBBCの年間の活動を評価するときに物差しとするのが「(番組の)質と独自性」、「コストパフォーマンス(投資された金額に見合ったコンテンツを生み出しているか)」、「(貧富、性別、居住地域に別にかかわらず)全ての視聴者に仕えているか」、「オープン性と透明性の確保」である。
この中の「(貧富、性別、居住地域に別にかかわらず)全ての視聴者に仕えているか」に、「公共の利のための放送業」という英国の伝統が根付く。
BBCのコンテンツを週に一度でも利用する人は英国の成人のほぼ全員に相当するが、トラストは、「全ての視聴者のそれぞれが利用しやすい形でBBCはコンテンツを提供するべき」、「番組や制作スタッフが英国内の多様性(性別、人種など)を反映するものであるべき」と記している。
BBCアイプレイヤーは(民放局の同様のサービスも同じだが)、最低限インターネットにつながっている家庭に住む人誰もが無料で利用できる。BBCのデジタルサービスの拡充には、放送に関わる最新のテクノロジーやサービスを(無料で)幅広く国民が享受できるようであるべきだ、という考え方が底流にある。
ーー管理職は男性の白人が多い
ほかにBBCの課題の1つとなっているのが、多様性の確保だ。
番組制作スタッフや出演者、管理職のメンバーは男性、しかも白人であることが多い。また、男性は中高齢になっても司会者として画面に出演できるのに対し、女性は高齢になると表舞台からはずされるとも言われている(実際に、高齢を理由に職を下ろされたとして何人かの女性がBBCに訴訟を起こしている)。
あらゆる領域でさまざまなバックグラウンドの人が放送業に参加しないと、多様性にあふれる国民の姿を反映しない番組作りになるし、さまざまな差別の温床になる可能性がある。そこで、BBC経営陣にとって、多様性確保が重要課題となる。
年次報告書の中で、BBC経営陣は「有色人種、障害者、女性を活用するための管理者プログラムを実行した」「テレビ番組にもっと女性が登場するよう努力している」と説明したが、トラスト側は「黒人、アジア人、そのほかの有色人種のスタッフの割合を12・5%にまで上げる」という経営陣の目標達成への歩みののろさを指摘した。
ーーお金の使い方に疑問符も
トラストは、BBCのお金の使い方に大きな疑問符が付けられた例を挙げている。そのうちの1つは1億ポンドに上る「デジタル・メディア・イニシアチブ」プロジェクト(ビデオテープの利用を停止し、全てをデジタル化する)が頓挫したこと、また、旧経営幹部退職の際の支払いが過剰であったのではないかという疑念があることだ。
この「旧幹部」の1人は前会長のジョン・エントウイッスル氏だ。先の人気司会者による児童への性犯罪疑惑を毅然とした態度で対処しなかったことで、会長職就任から54日で自己退職に至った。このときにエントウイッスル氏に支払われた退職金が高額で、支払額を決めたトラスト委員長のクリス・パッテン氏の責任問題にまで発展した。同氏は辞任には至らなかったが、体調を崩し、辞任を申し出た。新委員長が就任するまで、BBCトラストは委員長代理が統率している状態だ。
ーー地殻変動、近し?
BBCの現在の王立憲章と活動合意書は2016年末に失効する。前回はテレビライセンス料を視聴家庭が払い、これでBBCの活動をまかなうという形は変更しなかった。17年からはさらにライセンス両方式をとるのか、それともネットで見る人が増えることを見込んで、新聞の購読料のような購読料を体制をとるのかー?BBCは購読料体制になれば、収入が大きく減ることを懸念している。ここ1−2年で、ラインセス料体制が崩れる可能性もある。地殻変動の時代がすぐそこまで来ている。
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