2013年にパリに滞在したとき、あまりにも物乞いの人が多いことに驚いたことを日刊ベリタに書いたことがありました。この時の観察ではほとんどどの通りにも1人は路上で物乞いをしている人々がいる印象。さらに、路上生活者も多くいました。
「40代くらいの太った白人女性が改築中のアパートの入口に寝袋を敷いて常駐している。歩道の上なのだが、その一角は彼女の住まいであるかのようだ。留守の時は寝袋が畳んで置かれている。彼女が寝転んでいる場所の隣は鶏を焼いている店でいい匂いが絶えずする。彼女がその店の焼鳥弁当を食べていたのを見たこともある。」
路上で物乞いをする人々がみなホームレスなのか、そしてまた仕事のない人々なのか、そのあたりははっきりとわかりませんでした。
フランスにはSDFという頭文字をとった言葉があります。Sans Domicile Fixe (決まった住居をもたない人々)という意味で使われており、ホームレスとほぼ同義ではないでしょうか。ただ直訳すればSDF=「決まった住居がない」であって、厳密に言えば「ホームレス」とは必ずしも言えないのかもしれません。ホテルや知人の住まいや、様々な場所を転々としている人もSDFに入るのでしょう。
フランスのEurope1の2014年の報道によると、こうした決まった住まいがない人々の4分の1は定期的な仕事を持っており、そのうち40%はCDIさとされています。このCDIは’Contract Duration Indeterminee’=期限が定められていない雇用契約の人びとを差します。その反対がCDDでこちらは’Contract Duration Determinee’=期限が設定された雇用契約の人びと(有期雇用)です。そしてEurope1は別の統計も参照しながら、次のように指摘しています。
<決まった住まいのない人々は本当はもっと働いて、普通の暮らしを望んでいるけれども、定住所がないことがネックになって、雇用にありつけないのだ>。
こうした定住所のない労働者の4分の3は900ユーロ(約11万円)以下の月収であるという統計が出ているようです。こうした人々はプレカリテ(もともとの意味は不安定性)と表現されています。仕事が不安定だと、家賃を払うのが難しく、一方、住所がなくなってしまうと仕事に就くのが難しくなってしまいます。
この背景にパリの不動産価格の高騰も関係しています。2013年にパリで約30年創業してきた書店が閉鎖されることになったとき、筆者は日刊ベリタにこう書きました。数年間は値上げが微細でも、10年近くたつと周囲の地価の動向などの理由から急激な値上げが可能だと言うのです。
「カウフマンさんの場合、ブッシュラーデン(BUCHLADEN)書店は広さおよそ30平米で年間14000ユーロに、毎月100ユーロの不動産諸経費がかかる。つまり1年に15200ユーロ(年額105万円)になる。この家賃が規制緩和で許された9年目の改定によって、将来は2倍(年額210万円)になるという。これは小さな商店主にとっては厳しい額である。」
店の場合も個人の場合も経済状況が苦しくなって収入が減っているときに、急に家賃が高騰することで店や住まいを失ってしまうのです。その結果、次第にパリは低所得層の労働者やプレカリテの人びとにとって暮らすのが難しい都市になりつつあります。
■Europe1の報道
http://www.europe1.fr/france/40-des-sdf-salaries-sont-en-cdi-1938181
■Insee(フランス国立統計経済研究所)の統計
http://www.insee.fr/fr/themes/document.asp?ref_id=ip1455 2001年から2012年までの間に、住まいのない人々の数は50%増加したと書かれています。2012年の1月から3月の間にフランス全体で約10万人が住まいと食事の提供を受けたという記録があり、そのうち、約8万人が住居なき人々だったとされます。
■パリの文化の危機 家賃の高騰で書店が閉店 芸術家は郊外へ
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310262321046
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