市民発議を国民投票に付すことができるスイスでは、農薬補助金のカットや合成農薬の全面禁止を求める2つの市民発議が必要な署名を集め、2年以内に国民投票にかけられる見通しだという。この2つの市民発議が国民投票で過半数の賛成を集めるのか、あるいは敗退するのか、その見通しは報じられていないが、農薬大手の一角シンジェンタの本拠のスイスでのこの市民発議の結果は注目だ。(有機農業ニュースクリップ)
その一つは、今年1月に署名が提出された農薬や抗生物質を使う農家への補助金カットなどを求める市民発議「クリーンな水を全ての人へ」で、11万筆余りの署名が集まったという。
この市民発議は、グリーンピース・スイスやスイス釣り連盟などで構成するイニシアチブが進めてきたもの。国内の農家が安全な食品とクリーンな飲料水の供給に寄与するよう、連邦政府が主導すべきだとしている。スイスの農業補助金は約3200億円。2千トンの農薬の9割が農業で使われ、38トンの抗生物質が牛に使われ、川や地下水を汚染し、生物多様性に影響を与えている警告している。
・Swiss info, 2018-1-18 Anti-pesticide farm initiative passes the signature stage https://www.swissinfo.ch/eng/direct-democracy_anti-pesticide-farm-initiative-passes-the-signature-stage/43834044
もう一つの市民発議は、10年をかけて合成化学農薬の全面的な使用禁止を求めるもの。スイス西部ヌーシャテルの市民7人が2016年11月に立ち上げたもので、14万人余りの署名を今年5月、連邦内閣事務局提出したという。
この発議では、圃場の維持管理を含む農業や農産物加工において、いかなる合成農薬の使用も禁止するよう全面的禁止とし、合成農薬を使った農産物や食品の輸入も禁止するというもの。しかし、深刻な不足や農業に対する例外的な脅威を含む、人や自然に対する著しい脅威に対抗することが必要不可欠である場合に限り、合成農薬を含む未加工の食品や合成農薬を使用して生産された食品を、連邦議会は一時的に許可できると、例外規定を設けている。
・A Citizen’s Federal Initiative Save Switzerland from synthetic pesticides http://www.future3.ch/en/suisse_libre_de_pesticides
・Swiss Info, 2018-5-25 Swiss to vote on pesticide ban https://www.swissinfo.ch/eng/initiative-filed_swiss-to-vote-on-pesticide-ban/44145130
・Food Ingredients First, 2018-5-16 Switzerland votes for ban on synthetic pesticides http://m.foodingredientsfirst.com/news/switzerland-vote-for-the-banning-of-synthetic-pesticides.html
EUには市民発議の制度があり、昨年のグリホサート禁止を求める市民発議では130万筆余りの署名を集めている。求めていたグリホサート禁止は拒絶されたが、申請企業の提出データの原則公開など、農薬登録にかかる評価過程のより一層の透明化をEU委員会に表明させる成果を挙げている。
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